ペスト〔ぺすと〕 家庭の医学

 ペスト菌(Yersinia pestis)の感染による感染症で、腺ペストと肺ペストなどがあります。敗血症を起こすこともあります。日本では1926年(昭和元年)以来発生がなく、現在では温帯、熱帯の各国、特にインド、中国、南アフリカに多く、ヒマラヤ山脈、ロッキー山脈南部、アンデス山脈などの周辺にもみられます。
 これらの地域では野生のネズミが保菌しており、それに寄生しているノミに刺され、感染します。ペストの約80%は腺ペストです。腺ペストは高熱、頭痛、筋肉痛などのほか、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)が強く、全身のリンパ節が腫脹するため、この名がつけられています。
 肺ペストでは、上記の症状のほかに肺炎による呼吸困難や血たんを伴います。肺ペスト患者から喀出(かくしゅつ)される喀たんや飛沫(ひまつ)、エアゾールからの感染(飛沫感染、空気感染)があるので厳重な注意が必要です。
 確定診断には血液、リンパ節腫吸引物、喀たん、病理組織からの菌の培養・同定、PCR(polymerase chain reaction)法などによるペスト菌遺伝子の検出が役に立ちます。
 治療にはニューキノロン、テトラサイクリン、ストレプトマイシンなどの抗菌薬が有効です。

(執筆・監修:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授 岩田 敏)
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