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保育園・幼稚園でもらってくる感染症
~代表的5種、見分け方のポイント~ 【第1回】

 子どもが集団生活を送る保育園・幼稚園においては、感染症に罹患(りかん)する機会が多く、同じ病原体に遭遇した場合でも小児と成人では感染のしやすさや症状の程度が異なることがあります。年齢による免疫力の違い、予防接種歴、過去の罹患歴など、さまざまな要素が関わっているためです。ここでは、多岐にわたる子どもの感染症の見分け方について、代表的な五つを挙げながら解説します。

 1.RSウイルス

 呼吸器ウイルスの一つで、2歳までにほとんどのお子さんがRSウイルスによる感染症にかかると言われています。もともとは冬季を中心に流行していたのですが、近年、わが国では流行の開始時期が早まり、夏季に流行するケースが多くなっています。呼吸器ウイルスなので、肺につながる気道の症状(鼻汁、せき、喘鳴〈ぜんめい〉など)や発熱などが主な症状となります。年長児や成人では軽い風邪症状で済んだりすることも多いですが、乳児が初めて感染した場合は重症化しやすく、急性細気管支炎肺炎となり、入院が必要になったりします。呼吸困難から人工呼吸が必要になることもあり、注意が必要です。

 症状だけで他の呼吸器ウイルスと区別することは容易でなく、確定診断のためには鼻咽頭ぬぐい液を用いた検査が必要となります。抗ウイルス薬はなく、軽症の場合は自宅での対症療法が中心となります。入院加療が必要なことがありますので、症状が重い場合は無理をせず医師に診てもらうようお勧めします。

図1

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 2.エンテロウイルス

 さまざまなタイプが存在し、現在100種類以上と言われています。その多くは夏に流行することが一般的です。エンテロウイルスのタイプによって、感染したときの症状が異なります。2023年に日本で大流行したヘルパンギーナは乳幼児が中心のエンテロウイルス感染症の一つで、突然の発熱、喉の痛みに伴う唾液の増加が見られたりします。咽頭(喉の奥)に赤い発疹ができ、次に水疱(すいほう=水ぶくれ)となり、潰瘍(表面がえぐれた状態)となります。医師が咽頭にこれらの特徴的なサインを見つけ、診断を下します。

 ヘルパンギーナと似たエンテロウイルス感染症の一つに手足口病があります。手足口病でも発熱と口の中に痛みを伴う水疱ができ、唾液が増えたりしますが、さらに手のひらや足の裏、お尻などに水疱が見られるのが特徴です(図1)。エンテロウイルス感染症に対する抗ウイルス薬はなく、基本的には自然軽快します。まれに髄膜炎脳炎などを合併することもあり、注意が必要です。

 3.溶連菌感染症

 A群溶血性レンサ球菌が原因となる細菌感染症で、咽頭炎・へんとう炎、伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん=とびひ)、しょうこう熱などが主な症状となります。注意すべき点は、合併症として発症の数週間後にリウマチ熱(心臓の弁膜症、関節痛、発疹、皮膚の下の小さなこぶなどの症状)、腎炎などを起こすことがあります。

 学童期によく見られる咽頭炎・へんとう炎は、冬から春にかけて流行する場合が多く、発熱と喉の痛みを伴います。喉を見ると、咽頭へんとうの腫脹(しゅちょう=腫れ)や白苔(はくたい=うみ)が観察されます。しょうこう熱は5~10歳に多く、咽頭炎とともに舌がいちご状に赤く腫れ、全身に鮮紅色の発疹が見られます。抗原の迅速診断キットや細菌培養などで確定診断されます。適切な抗生物質による治療開始後、 24時間以内に感染力がなくなるため、それ以降は登園可能となります。

 4.百日ぜき

 百日ぜき菌と呼ばれる細菌によって引き起こされる感染症で、連続性・ 発作性のせきが長期にわたって続くことが特徴です。回復するのに数週間から数カ月もかかる場合があります。ワクチン未接種、あるいは未完了の乳幼児期に多く見られますが、学童期から10代前半や成人の発症もあります。発熱はあまりありませんが、病初期は通常の風邪と見分けがつきにくいこともあります。

 典型的な症状は激しいせき込み、しつこいせきによる顔面の紅潮、せき込みの後の呼吸苦です。小学生になると、せきのしつこい風邪に思われることも少なくありません。年齢が低いほど症状は重く、特に生後3カ月未満の乳児では呼吸ができなくなる発作(無呼吸発作)、肺炎、中耳炎、脳症などの合併症も起こりやすくなります。保育園・幼稚園に入園する前の予防接種が重要です。

図2

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 5.麻疹(はしか)

 麻疹ウイルスへの感染によって発症し、重い合併症を引き起こすと生命に危険が及んだり後遺症が出たりします。症状としては、発熱せき・鼻水などの気道症状、結膜炎(目の充血、目やに・涙)に続き、口内の頬粘膜にできる白い斑点(コプリック斑)や全身の発疹が出現します(図2)。通常は7~10日間程度で徐々に回復しますが、合併症として肺炎脳炎、中耳炎、クループなどがあります。

 麻疹は感染力が非常に強く、免疫がない場合は成人でも発症します。麻疹ウイルス含有ワクチンの接種が唯一の感染予防手段です。近年、新型コロナウイルス感染症の流行により、国内外で小児のワクチン接種率が低下し、麻疹に対して免疫を持たない方が増えてきています。海外からの持ち込みを契機に感染拡大が起こる可能性があり、注意が必要です。

 ここで挙げた例以外にもさまざまな感染症がありますが、意識がはっきりしない、機嫌が悪い、食欲が低下している、水分が取れない、顔色が悪い、息苦しそう、嘔吐(おうと)を繰り返す、けいれんしているなどの症状がある場合は、早めにかかりつけ医・病院に相談・受診してください。次回は、家庭内感染を防ぐ方法についてお伝えいたします。(国立成育医療研究センター・大宜見力)


大宜見力(おおぎみ・ちから)
 国立成育医療研究センター 小児内科系専門診療部 感染症科 診療部長。
 2000年富山大学医学部医学科卒。専門は小児科、小児感染症。日本小児科学会専門医、日本小児感染症学会指導医、米国小児科専門医、米国小児感染症専門医。

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