「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~

コロナ5類移行で感染症全体が動いた 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第5回】


 ◇小児の呼吸器感染症も増加

 咽頭結膜熱(プール熱)ヘルパンギーナ、A群溶連菌咽頭炎など、小児を中心にまん延する呼吸器感染症も、新型コロナが発生してからしばらくは流行が見られませんでした。こうした感染症は飛沫(ひまつ)や接触で感染するため、新型コロナ対策でマスク着用や手洗いを強化したことにより広がらなくなったのです。そして5類移行後、予防対策が緩和されてから流行が再燃しました。

コロナ5類移行後初の年末を迎えたJR東京駅の東北新幹線ホーム。マスク姿は少ない(2023年12月)

コロナ5類移行後初の年末を迎えたJR東京駅の東北新幹線ホーム。マスク姿は少ない(2023年12月)

 これらの感染症への免疫も、流行がしばらく無かった間に低下しており、患者数がコロナ前より増えているとともに、変則的な流行も見られています。例えば咽頭結膜熱は、本来は夏に拡大しますが、23年は秋から冬にかけて患者数が増加しました。このような患者数増加や変則流行も、次第に本来の状況に戻っていくと思います。

 一つ気がかりなのがマイコプラズマ肺炎です。この呼吸器感染症は小児だけでなく大人もかかりやすい病気ですが、新型コロナが発生してから患者発生はほとんどなく、5類移行後も再燃していません。そろそろ大きな流行が起きることを想定しておく必要があるでしょう。

 ◇手洗いだけは続けよう

 新型コロナが発生する前まで、インフルエンザなどの呼吸器感染症は国民の間で毎年のようにまん延し、医療にも大きな負荷をかけてきました。しかし、新型コロナ禍を受け、マスク着用や手洗いなどの感染対策を強化したことにより、呼吸器感染症そのものが一時的に減りました。「この影響で免疫が低下した」とも言えますが、もし、私たちがこうした感染対策を続けることができれば、呼吸器感染症による医療への負荷を今後も軽減できるかもしれません。

 マスク着用を継続するのは非現実的ですが、せめて頻繁な手洗いを続けていけば、呼吸器感染症は社会から少なくなっていくはずです。これは、今回の新型コロナ禍を経験して私たちが学んだ貴重な知恵だと思います。(了)

濱田客員教授

濱田客員教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)
 東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
 1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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