こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第11回 転移乳がん、増える薬物療法の選択肢
弱点攻める分子標的薬の開発も 東京慈恵会医科大の現場から

   ◇副作用を抑えて治療を支える薬も

 ここでは、化学療法の抗がん剤の副作用について改めて説明しておきたいと思います。

 抗がん剤は細胞分裂を邪魔する薬(細胞障害性抗がん薬)なので、正常な組織にも副作用が出ます。細胞分裂が比較的盛んな毛根や造血細胞、口の中などの粘膜に影響が出やすく、脱毛や白血球減少、口内炎などが生じます。また、吐き気も問題となります。

 このため「抗がん剤は怖い」というイメージが広まっていますが、最近は新しい吐き気止めや、白血球を増やして免疫力低下を防ぐG―CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤など、副作用を抑えて治療を支援する薬が開発され、以前よりも楽で安全に治療を受けられるようになってきています。

 一方、病気の進行具合に関わらず、体や心のさまざまな苦痛を和らげる「緩和ケア」を受けることも可能です。十分睡眠を取れるような薬や医療用麻薬を含む痛み止めの薬を処方されることもあります。

 ◇抗HER2薬以外の分子標的薬も多様に

 分子標的療法の分野では、抗HER2薬以外にも、がん細胞の弱点を攻める賢い治療薬がいくつも開発されています。

 遺伝性乳がんの中で最も多い遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の患者を対象にした分子標的治療薬「オラパリブ」もその一つです。「PARP(パープ)阻害剤」と呼ばれる種類の分子標的治療薬で、DNAの傷を修復するPARPタンパクの働きを止めることにより、がん細胞を「細胞死」に至らせます。

 オラパリブは、HER2タンパク陰性のHBOC患者で、化学療法歴がある場合に使われます。標準治療である抗がん剤と比べて、がんの進行を遅らせる効果が認められています。HBOCの発症メカニズムとオラパリブの作用の詳細については、以前の連載記事も参照してください。

 化学療法が基本のトリプルネガティブ型の乳がん治療でも最近、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる種類の分子標的治療薬「アテゾリズマブ」に保険承認が下り、一定の条件の下で使えるようになりました。

 免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が体内の免疫反応にブレーキをかけるのを抑えて免疫を活性化し、抗腫瘍効果を発揮します(免疫療法の一種)。乳がん以外のがんで、このタイプの薬がいくつも治療に使用されていますが、アテゾリズマブは「PD―L1」というタンパクを標的にした免疫チェックポイント阻害剤です。

 そのほか、「PI3キナーゼ(PI3K)阻害剤」という種類の分子標的治療薬「アルペリシブ」も注目されています。作用の説明は別の機会に譲りますが、臨床試験でホルモン受容体陽性の乳がん患者の一部に効果が確認されており、今後使用されるようになると考えられます。

 再発・転移が見つかった患者の乳がんは多様ですが、多くの場合、紹介したような治療を受けながら、家庭生活や仕事を続けることは可能です。必要に応じて薬を変えながら、治療を続けていきます。(東京慈恵会医科大学附属病院腫瘍・血液内科 永崎栄次郎)













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