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気持ちがつらいとき、どうする?
~コロナで傷ついた心との向き合い方―子ども編~ 【第7回】

 子どもの皆さんへ。

 「学校に行きたくない」「誰も話を聞いてくれない」「生きているのがつらい」など、つらさや悲しみをたった一人で抱え込んでいませんか? 私たち人間は、感情という大切な心の機能を持つ生き物です。ですから、誰でもその時の状況や体験などにより心が動き、「うれしい」「楽しい」、または「つらい」「しんどい」「悲しい」という感情が生じます。このたくさんの感情は、どれが正しいとか間違いとかといったものではなく、どの感情もあなた自身の大切な心の動きとなっているのです。

つらい気持ちを一人で抱え込まない

つらい気持ちを一人で抱え込まない

 ◇生活の変化がストレスに

 あなたはどんなときに、うれしさや楽しさを感じますか? つらいとかしんどいなどの感情が出てきやすい場面は、どんな状況が多いでしょうか? 特に、つらさやしんどさにはストレスというものが関連しています。ストレスとは、体や心の健康に悪いと知覚された出来事を経験することと言われ、以下のような出来事との関連が強いとされています。

 1.トラウマ的な出来事(急な体調の変化、病気の発症、けがや事故、自然災害など)
 2.自分ではなかなかコントロールできない出来事
 3.予測できない出来事
 4.再適応が必要となる生活上の大きな変化
 5.自分の中のモヤモヤや葛藤(かっとう)

 特に、新型コロナウイルス下では上記のような状況が長く続きましたね。そんな中で、子どもたちはたくさん頑張ってきました。目指していたことや楽しみにしていたイベント、日々の友達とのおしゃべりや部活動など、たくさんのことがなくなってしまい、いつ再開できるのかさえ分からない状況でした。学校でも、マスクを着けた生活を強いられ、食事も会話も制限されたことがありましたね。中には自身のコロナ感染、大事な家族の感染などにより、不安や心配が尽きなかった子どもたちもたくさんいるのではないでしょうか。

 今やっとコロナ前の生活が回復しつつあります。私たちはコロナ拡大以降の生活様式の変化に心身を合わせるため、実は知らない間に気が張って緊張が続いたり、目標などの再設定に悩んだりするなど、自分では気付かない場面でもいろいろなストレスと日々付き合ってきています。

 ◇君たちに伝えたい

 かけがえのない君たちに伝えたいことがあります。

 1.どんな感情も大切に
 特につらいとき、しんどいとき、その感情に気付くのもつらいから我慢して感情を押し込めてしまうことがあるかもしれません。感情を押し込め過ぎると、おなかや頭の痛みが出たり、落ち着かなくてそわそわしたり、自分や誰かを攻撃したり傷付けたりするなど、体の症状や行動に変化が起きてもおかしくありません。感情に気付いたら、我慢しないで、なるべく言葉にしてみるようお勧めします。
 感情を示す言葉はたくさんあります。どんな感情もすべてあなたの大事な心です。

 2.自分でコントロールしよう
 その感情を自分でコントロールする方法を身に付けましょう。特に、しんどい、つらい、イライラするというネガティブな感情は長く続いていると誰でも心が疲れます。ですから、言葉にするとともに、それをコントロールできるスキルを見つけて大事にしましょう。
 望ましいスキルは①ストレス反応が改善される②人に迷惑をかけない③安全④お金がかからない⑤健康に害を及ぼさない⑥簡単にできる―といったものです。
 例えば、推し(大好きで積極的に応援している)のアイドルの歌を聴く・歌う、推しの絵やイラストを眺める・書く、大事な人と話をする、外を走ってくる、などがあります。深呼吸や筋弛緩(しかん)法、マインドフルネスというのもお勧めです。以下のサイトを参考にしてみてくださいね。
 あなたならではのストレス発散法を大事にし、そのスキルを使って自分をコントロールしているご自身に自信を持ってください。
 ・深呼吸 https://youtu.be/bsiYMxlNYeM
 ・筋弛緩法 https://youtu.be/fxvESsy7h0I
 ・マインドフルネス
  ▽音を探す https://youtu.be/AmTtWLE8X8c
  ▽遠くを見る https://youtu.be/tQJzvd38FJU

 3.頑張り過ぎのサイン
 子どもの心に関する相談の中で会う子どもたちの多くは、頑張り過ぎのサインが出ていてもなお頑張り続け、結果的に心身のバランスを崩して相談に来ます。
 こんな人はいませんか? 
 ・気持ちが落ち込み、このところずっとやる気が出ない
 ・いつもより気が散って集中できず、イライラしてコントロールが利かない
 ・人や自分を傷つけてしまったり、物を壊したりしてしまう
 たった一人でつらさを耐えている、誰にも話せなくて自分の心を癒やすために自分を傷つけている、生きる居場所も自信もなくて、ただただ死のことばかり考えている…。
 よくここまで耐えてきましたね。今あなたが居ることが、かけがえのないあなたの勇気の印です。下記は、あなたの心のつらさ・苦しさを伝えるときの手助けになる動画です。私たちの思いとあなたの大切な思いが届き、つながりますように。

 最後に、みんなにエールを。(国立成育医療研究センター・田中恭子)

 〔動画〕
 曲名:とどけ
 歌:Uta 作曲:Uta 作詞:Uta かがやきく 編曲:兼松衆
 歌詞原案:田中恭子(国立成育医療研究センター)、後藤遷也
 イラスト:後藤裕子  制作:NHKエンタープライズ
 企画監修:国立成育医療研究センター 
 Link:https://youtu.be/JsmFuCfdbDk


田中恭子(たなか・きょうこ)
 国立成育医療研究センター 小児内科系専門診療部 こころの診療科 診療部長。
 1996年順天堂大学医学部卒。専門はコンサルテーション・リエゾン、小児心身症、発達心理学。小児科学会専門医、小児心身医学会認定医、子どものこころ専門医、公認心理師、臨床心理士。

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