治療・予防

子も親もつらい夜尿症
~「たかが、おねしょ」と言うなかれ~

 5歳にならない子どもが「おねしょ(夜間の尿漏れ)」をするのは普通だが、それがいつまでも続くと「夜尿症」かもしれない。「たかが、おねしょ」と考えるのは早計だ。夜尿症の子どもは幼稚園・保育園や小学校の生活でつらい思いをし、親も相当な苦労やストレスを抱える。夜尿症の治療に詳しい医師は「時間がかかることがあっても、生活面の指導や服薬により改善できる」と話す。

排尿の仕組み

排尿の仕組み

 ◇小学1年クラスに3.5人

 排尿(おしっこ)の仕組みは年齢とともに発達する。順天堂大学付属練馬病院の大友義之教授(小児科)はこう説明する。0~2歳では反射的に排尿してしまうが、2~4歳では徐々に抑制できるようになり、親がうまく導けば昼間のお漏らしはなくなる。4歳を過ぎると、夜間におねしょをしないようになる。

 おねしょと夜尿症はどう違うのか? 日本夜尿症学会の診療ガイドラインによれば、「5歳以降で月1回以上のおねしょが3カ月以上続く場合は夜尿症と診断され、治療が必要な場合がある」としている。5歳で15%、7歳では10%、15歳以上でも1~2%が夜尿症だといわれる。小学校1年生のクラスだと、1クラスに約3.5人の夜尿症の子どもがいる計算になる。

 ◇男児に多い夜間尿漏れ

 大友教授は「夜間の尿漏れは男児に多い。親のどちらかが夜尿症だと、発症率は6倍ほど高い。両親とも夜尿症だった場合は、11倍ほどの頻度になる」と指摘する。

 小学6年生までおねしょをした経験がある父親が、受診を望む母親に反対することもあるという。

 「うちの子はまだ小学校の低学年だ。何で病院に行かなければならないのか」

  日本では、小学校低学年の夜尿症の子どもが多いとする発表もある。

 ◇3人の母が体験語る

 「世界夜尿症ウィーク」(6月5~11日)を前に東京都内で開かれたセミナーで、子どもの夜尿症を経験した3人の母親が体験を語った。

 12歳女児の母であるAさん。女児は幼稚園の頃に幼稚園のお泊まり保育の時に、おむつを隠して持って行った。本人も恥ずかしがったと言う。

 Bさんの子どもは8歳男児。小学校に入る前もおねしょが続いていた。兄のおねしょは3歳くらいで終わっていた。子どもが同じような状態の隣人が「夜尿症という病気がある」と教えてくれた。これが専門医を受診するきっかけになった。

 Cさんの子どもは12歳男児。彼女はネット情報で夜尿症という病名を知った。小児科の医師が病院の専門医への紹介状を書いてくれた。

 ◇苦労とストレス

 Aさんは子どもがトイレに何回行ったか数えたり、尿の量を計量カップで測ったりした。成長過程でおむつのサイズが合わず、尿が寝具に染みて大変だったという。

 Bさんは仕事に行く前に、洗濯機を回してシーツなどを洗った。大きな負担だった。子どもは幼稚園の「お泊まり保育」を「行きたくない。おむつをしているのがばれちゃう」と嫌がった。コロナ禍で中止になった時、子どもは「良かった」とほっとした。子どもの友達は中止を残念がっていたのに…。親としては、少し悲しい気持ちになった。

 「お前、まだおむつをしているんだってな」。兄の友人が遊びに来た時、弟に言った。弟は大きなショックを受け、兄弟げんかになってしまった。

 子どももつらいが、親も苦労する。Cさんは「何で漏れちゃったの」という言葉が出かかったことがあるという。言わないようにしていたが、ストレスはあった。それでも、子どもの気持ちは分かるから我慢できる。1カ月ほどは順調だったのに尿が漏れてしまった子どもが「またやっちゃった」と言うと、言葉に詰まった。

 ◇ゴール見えない不安

 すべての小児科医が夜尿症に詳しいわけではない。親が思い切って相談しても「しばらく様子を見ていれば、いずれ治るよ」と言われることもある。自然に改善していく傾向はあるが、いつまでも治らなければ、親は心配になる。

 治療をしても、不安が付きまとうこともある。Cさんの場合、子どもが小学校3~4年の頃、状態が良くなり「これで終わるのかな」と喜んだ。その後、また調子が悪くなり、「いつ終わるのだろうか」という不安に駆られた。ゴールが見えないのはつらい。

  • 1
  • 2

新着トピックス