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白内障手術を成功させるには?
~見極めるべきタイミング~ 【第2回】

 皆さんが眼科を受診するのは目の調子が悪いとき、例えばかすみや視力低下、目やに、目の痛みや腫れ、小さな虫みたいなものが飛んでいる、ギザギザした光が見えるといった症状がある場合だけではありません。健康診断で精密検査を勧められたり、「年だから悪いところがないか見てほしい」と考えたりしたときなど、タイミングはさまざまです。そうした機会に白内障が見つかった場合、治療はいつ受ければよいのでしょうか。

治療を受けるかどうかは白内障の進み具合や日常生活への支障の程度によって決める(イメージ画像)

 ◇悪化予防へ点眼薬やサプリ

 白内障の治療は進行予防と、ある程度進行したものに対する手術があります。

 眼科を受診した際に白内障と診断され、点眼薬を処方されている方も多いとみられますが、点眼薬が人に対して有効であるとの報告(1)はわずかで、科学的根拠がほとんどない可能性があります(2)。それを踏まえた上で、病気が進行し手術をすることになるまで、何年あるいは何十年と差し続けるのかを判断してください。

 サプリメントによる進行予防も可能で、ビタミンE、ビタミンC、βカロチン、ゼアキサンチンあるいはマルチビタミンは効果が確認されています(3)。また、糖尿病高血圧肥満、高コレステロール血症は白内障の危険因子として知られていますので、毎日の運動や、果物・野菜を豊富に含むバランスの良い食生活を心掛けるのもよいでしょう。

 ◇こんな自覚症状なら手術?

 手術は濁った水晶体を取り除き、人工のレンズ(眼内レンズ)を目の中に固定するというものです。では、手術に適したタイミングはいつなのでしょうか? それには医師が主導すべきタイミングと、皆さんの自覚症状から考えるべきタイミングがあります。

 「白内障と診断されて手術を勧められたけど、本当にしなければいけないの?」という声を聞くことが多いので、今回は皆さんの自覚症状を基に考えてみたいと思います。

 1. 眼鏡を使用しても視力低下(1.0未満)があり、自覚症状を伴っている

 いつ受けても問題ありません。すでに視力が下がっているのにいつまでも放置するのは、手術の危険性が高まる可能性があるので注意が必要です。ためらっている方の多くは高齢であるか、生活上困っていないという理由が多いように感じます。

 手術は生活の質を大きく改善し、長寿社会の一助となります。私たち医師がその旨を適切にアドバイスできるよう心掛ける必要があり、診療をしていて難しいと感じる点でもあります。

 2. 視力低下はないが、まぶしさやかすみがいつも気になる

 皮質白内障や後嚢下(こうのうか)白内障の多くは、ある程度進行するまで見える(視力低下はない)状態が続きます。ただし、まぶしさやかすみを常時自覚するほどになっている場合は、いつ手術を受けてもよい状態だと考えられます。

 重要なのは視力低下とともにコントラスト低下(かすみ)の有無です。眼鏡を使用した場合の矯正視力だけで手術の適否を判断している医師もいて、自分ではとても不快なのに「担当医がまだ大丈夫だと言うから我慢してきた」という方も少なくありません。そんなときにはセカンドオピニオンを求めてはいかがでしょうか。

 3. 天気や部屋の明るさによって見え方が大きく違う

 2に近い状態だと考えられますが、2ほど進行していない場合に見られる症状です。

 「晴天の日には強くかすむが、曇天や雨天の日にはよく見える」「明るい部屋では見えにくいが、少し暗い部屋なら気にならない」「ヘッドライトや街灯の光あるいは月がぼやけたり、光の筋が見えたりする」といった訴えが多いようです。このような場合には、皆さんの生活への影響度によって手術するかどうかを決めるとよいでしょう。

 買い物や外食のときぐらいしか外に出掛けない方は、2の状態になるまで待ってもよいかもしれません。釣りやゴルフ、テニスなどアウトドア活動の多い方は、すぐに手術を考えてもよいでしょう。

 4. 以前よりなんとなくすっきり見えず、特に遠くの見えにくさが気になる

 眼鏡を掛ければ問題なく見えるような軽度の白内障である場合と、核白内障の進行速度が速まってきている場合が考えられます。若い頃は遠くも近くも裸眼で何でも見えたという方の場合、40~50代は老眼鏡だけで過ごせるのですが、白内障が少し進んでくると調節力(ピントを合わせる力)が低下しますので、遠くがすっきり見えなくなってきます。このようなときには手術を考えるのではなく、まず遠くを見るための眼鏡を勧めます。

 眼鏡が我慢できないほど嫌という方は、手術により得られる利益と人工レンズに代わる不利益をてんびんに掛けて考える必要があります。

 核白内障が進行すると、徐々に遠くが見えにくく、近くが見えやすくなってきます。このため、「老眼鏡を使わないと見えなかったのに見えるようになってきた」あるいは「近視用の眼鏡を掛けても遠くが見えにくくなってきた」と訴える方が多くいます。この場合は眼鏡を変えれば見えるようにできますが、さらに症状が進むと何度も眼鏡を作り替えることになる場合もありますので、自身の裸眼視力か屈折値の変化を眼科や眼鏡店で確認し、手術をした方がよいかを眼科医と相談してみてください。

 5. 左右どちらかの目にだけ症状がある

 基本的には白内障が進行している方の手術をすればよいのですが、気を付けてほしいのは、もともと近視がある方です。

 詳細は今後の連載でお話ししたいと思いますが、片目の手術をする場合、手術をしない目の見え方に合わせてバランスを取ることが重視されがちです。近視がある方は手術をする目に近視を残す結果になります。

 ここで考えなければならないのは、将来はもう片方の目も手術をするケースが多いということです。つまり、両眼の手術が終わったときにどんな見え方になりたいかを考えることがとても重要なのです。手術後にバランスが悪くなった場合には、手術をしない目にコンタクトレンズを装用するといったさまざまな対策が可能ですので、「もともと近視の方は手術後も近視」という手術を本当に受けてよいのかよく考えてみましょう。

 6. 本やテレビも何となくしか見えていないけど困っていない

 「検査をすると視力は低下しているし、白内障も進んでいるのに全然困っていない」という方が時々います。見ることへのこだわりがあまりないためと考えています。つまり「本や新聞、スマホも何となくは見えていて、小さい字は虫眼鏡で大きくすると読める」「テレビは字幕が読めなくても人が見えていたらよい」という感覚を持っている方です。

 このような方は手術をすると非常に喜びます。しかし、手術への前向きな気持ちを持つのが難しい場合が多く、説明のために何度かの診察を促し、手術後の生活を少しずつ理解してもらえるよう心掛けています。

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