こちら診察室 痔を治す
便秘と痔は悪友?
息みの見過ごせないリスク 【第2回】
便秘は現代人の多くが抱える悩みであり、生活の質を下げる原因にもなります。便秘と痔は、一見すると無関係に思えるかもしれませんが、実は深い関係があります。
特に便秘が引き起こす「息み」は、痔を悪化させる大きな要因の一つです。便秘の状態では、硬くなった便を排出するために通常以上に力を入れることになります。
本コラムでは、便秘と痔の関係を掘り下げ、具体的な予防策や改善法を紹介します。
排便時の「息み」は、痔の発生や悪化を促進する(イメージ)
◇便秘が痔を引き起こすメカニズム
便秘になると便が硬くなり、排便時に腸内や肛門に過剰な力がかかります。この際に生じる「息み」は痔の発生や悪化を促進します。
排便時の息みによって肛門周辺の血管が圧迫され、血流が悪化することがあります。これにより、肛門の静脈が膨張し、痔核の脱出や裂肛が起こるリスクが高まります。
•内痔核の脱出
内痔核は肛門内の血管が腫れることで発生しますが、便秘時の強い息みによって肛門の外に飛び出してしまうことがあります。初期段階では手で押し戻せますが、頻繁に繰り返すと戻らなくなり、手術が必要になる場合もあります。
•裂肛の発生
硬い便が肛門を傷つけることで裂肛が発生します。これが慢性化すると、傷が治りにくくなり、さらに痛みや出血がひどくなることがあります。
•痔ろうのリスク
裂肛が放置されると、肛門腺に感染が広がり、痔ろうに進行するリスクがあります。痔ろうは自然治癒が難しく、外科的な処置が必要になります。
◇便秘と痔の関係を示す実例
40代女性の例では、便秘が1週間続いた後、強い排便時の痛みと出血を経験しました。その後、診察で内痔核と裂肛の診断を受け、便秘改善の指導と痔の治療が並行して行われました。このように、便秘が直接的に痔を悪化させるケースは珍しくありません。
【便秘解消のための具体的な対策】
便秘は腸内環境にも悪影響を及ぼします。便が長期間、腸内に滞留することで、有害物質が生成され、それが腸内の健康を損なう原因になります。この状態が続くと、腸の動きがさらに悪化し、便秘が悪化するという悪循環に陥ります。
便秘を解消することが痔の予防と改善に直結します。日常生活の中で以下のポイントに取り組むことが重要です。
【食生活の見直し】
•食物繊維を多く含む食品を摂取:野菜(例えば、キャベツやブロッコリー)、果物(リンゴやバナナ)、全粒穀物(オートミールや玄米)を積極的に摂り入れましょう。
•水分補給:1日2リットルを目安に水を摂取することで、便を軟らかくし、スムーズな排便を促します。
【運動の習慣化】
•軽い運動の導入:ウオーキングやストレッチは、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進し、便秘解消に効果的です。特に、毎日20分程度の散歩を習慣化するだけでも腸の動きを活発にします。
•腹筋運動:腹筋を鍛えることで、腸の動きをサポートする効果が期待できます。
【便秘薬の正しい使用】
•非刺激性下剤を活用:酸化マグネシウムやポリエチレングリコールなど、腸に優しい下剤を適切に使用しましょう。刺激性下剤は長期使用すると腸への負担が大きいため、必要に応じて医師に相談してください。
毎日同じ時間にトイレに行くことで、体がそのリズムに慣れ、自然と便意を感じやすくなる
◇便秘を予防するための生活習慣
【規則正しい食事】
私たちの体は食べたものでつくられています。栄養バランスの取れた食事をすることは健康な腸を維持するために不可欠です。
特に朝食をしっかり取ることで、胃腸の動きが活発になり、自然な便意を誘発します。
【トイレの習慣を整える】
便意を感じたら我慢せずに排便することが重要です。毎日同じ時間にトイレに行くことで体がそのリズムに慣れ、自然と便意を感じやすくなります。特に朝食後の排便習慣を身に付けると、腸内リズムが整いやすくなります。
【ストレスを管理する】
ストレスは腸の働きを鈍らせる原因になります。リラックスできる時間を意識的につくり、腸の健康を保ちましょう。例えば、寝る前の深呼吸や瞑想(めいそう)はストレス軽減に効果的です。
◇便秘と痔を悪化させるNG行動
【便意を我慢する】
便意を我慢すると、腸内に便がたまり、さらに硬くなります。これが繰り返されると、慢性的な便秘や痔の悪化を招きます。
【トイレでスマホを長時間操作する】
長時間トイレに座ると肛門に圧力がかかり、痔核が悪化する可能性があります。便意を感じたときだけ短時間で済ませることを心掛けましょう。
【便秘解消に向けた日常的な工夫】
•朝起きたらコップ1杯の水を飲む:これにより腸が刺激され、便意が促されやすくなります。
•腸活食品の活用:ヨーグルトや発酵食品(キムチ、納豆など)を積極的に摂ることで、腸内環境を整えることが可能です。
【医療機関を受診すべき便秘の症状】
以下のような症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することを検討してください。
•1週間以上、便が出ない場合
•便に血や粘液が混じる場合
•強い腹痛や嘔吐を伴う場合
便秘と痔は密接な関係にあり、適切な対応を取ることで両方の症状を改善することが可能です。日常生活の中での予防策を徹底し、必要に応じて医療機関での診察を受けることで、健康的な生活を取り戻しましょう。
次回は、痔の初期症状や気付きにくいサインについて解説します。(了)
鈴木隆二医師
鈴木隆二(すずき・りゅうじ) 医療法人社団筑三会理事長、消化器外科専門医(筑波胃腸病院、千葉柏駅前胃と大腸肛門の内視鏡日帰り手術クリニック・健診プラザ)。聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学消化器病センター助教を経て、20年現理事長に就任。日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会専門医、麻酔科標榜医、産業医、難病指定医。経営では医療DXに注視し、多数の取材・本を出版している。
(2025/03/13 05:00)
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