新米医師こーたの駆け出しクリニック

肥満症への所感
~1年間の勤務経験から~ 内科専門医・渡邉昂汰

 早いもので、今年度も残りわずかとなりました。私はこの1年間、肥満症センターで勤務していました。さまざまな経験を積み、充実した1年だったと思います。

 さて、去る3月4日は世界保健機関(WHO)が制定する世界肥満デーでした。遅まきながら、啓発の一助となることを願って、私自身の経験を踏まえ所感を述べてみます。

肥満症に対する誤解・偏見は患者を苦しめ、社会的な差別を生んでいる

肥満症に対する誤解・偏見は患者を苦しめ、社会的な差別を生んでいる

 ◇さまざまな診療科の連携必要

 肥満症は、肥満によって健康障害が生じている状態のことです。肥満関連疾患には、高血圧糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの内科疾患に加え、睡眠時無呼吸症候群、月経異常、整形外科的疾患が含まれます。睡眠時無呼吸症候群以下は内科では十分な診断・治療ができないため、それぞれ耳鼻科、産婦人科、整形外科での対処が必要です。

 そして、高度肥満症に対して最も効果的な治療である減量代謝改善手術は、消化器外科によって行われます。また、この手術は精神疾患の発症・悪化に関連があるとされているため、精神科の関与も欠かせません。

 このように肥満症の治療は、さまざまな科が連携することによって初めて完成します。治療に本気で向き合いたいなら、この病気のスペシャリストが各科にいる肥満症センターへの通院がお勧めです。

 ◇偏見が治療の妨げに

 肥満の原因は生活習慣だけではなく、遺伝や体質、内服薬、ホルモン異常などの、本人の努力だけでは改善できない部分も多いです。しかし、「自身の怠慢が原因である」という誤った認識により、肥満症の方々は社会的な差別を受けています。患者さんたち自身もこの偏見を持っており、そのため自己評価が低い方が多いように感じます。

 このような他者および自己の偏見は、治療意欲をそぎ、肥満症治療にたどり着けない患者さんを増やしています。実際に私が担当した患者さんも「自暴自棄になってしまい、肥満症治療を中止してしまったことがある」という方が多く、偏見によって治療の機会が奪われていることを身に染みて感じました。

 来年度は「肥満症センター受診のハードルを低くする」「社会全体として肥満への理解をアップデートできるように啓発をしていく」の二つを自分の使命として、肥満の診療・研究にまい進したいと思っています。(了)

渡邉昂汰氏

渡邉昂汰氏


 渡邉 昂汰(わたなべ・こーた) 内科専門医および名古屋市立大学公衆衛生教室研究員。「健康な人がより健康に」をモットーにさまざまな活動をしているが、当の本人は雨の日の頭痛に悩まされている。


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