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老視矯正レンズの功罪 【第5回】
前回は眼内レンズの種類と特徴を紹介しました。今回はその一つである老視矯正(多焦点)レンズのメリットとデメリットを紹介しながら、その特徴ゆえに診療で経験する功罪について説明します。
◇見え方に癖、改善は道半ば
白内障手術では濁った水晶体の中身を取り出し、代わりにピントを調節する機能を担う眼内レンズを目の中に固定します。眼内レンズには単焦点レンズ、老視矯正(多焦点)レンズがあり、単焦点はピントの合う距離の幅(焦点深度)が狭く、老視矯正は広いという特徴があります。

通常の見え方(上)とコントラストが低下した場合の見え方
老視矯正レンズにはさまざまな種類があり、構造的特徴から、回折型、累進焦点型、分節型、その他(独自構造を持ち、前3者のどれにも分類されない)に分類されます。遠方を見る際のコントラスト(見え方の明瞭さ)を良くしながら、できる限り近い距離も見えるようにすることに主眼が置かれています。
改良により進歩はしていますが、現時点で目標の実現は道半ば。コントラストを良くすれば近くが見えづらくなり、近くを見えやすくすればコントラストは低下するという域を脱していません。
もう一つの重要なポイントは、異常光視現象(ハロー・グレア・スターバースト・ゴースト)の発生です。同現象は各種の老視矯正レンズに見られる構造的特徴に起因し、レンズ表面の凹凸が大きいほど強く、平滑であるほど弱くなる傾向にあります。異常光視現象およびコントラストを、前者は強く感じるものから、後者はより明瞭なものから並べると、
異常光視現象:回折型 > 分節型 > 累進焦点型 > その他
コントラスト:その他 > 累進焦点型 > 分節型 > 回折型
となります。
ただし、型が同じでも異常光視現象の強弱やコントラストが異なるケースがあり、順序が逆転する部分もあります。回折型では、近距離の視力を良くすればするほど異常光視現象は強くなる傾向がある一方、分節型や累進焦点型では回折型ほど大きな差がありません。また、「その他」に含まれるものは総じて近くを見る視力が他の型より弱いので、癖の少ない(単焦点レンズに近い)見え方が可能になっています。

光の周りににじんだ輪が見える「ハロー」

光がぎらつくなどしてまぶしく感じる「グレア」

放射状に広がる光の線が見える「スターバースト」
◇生活スタイル踏まえた選択を
日ごろの診療で皆さんが生活に合う老視矯正レンズを選択できれば、高い満足度が得られ、眼鏡から解放され、手術後の生活が非常に快適になります。
一方で、レンズの種類ごとの癖をあまり理解せずに選択したために、手術後の見え方が受け入れ難く、改めて入れ替え手術を受ける方がいるという事実も知っておいてください。老視矯正レンズの功と罪の分かれ目は、皆さんの生活に合ったものか否かにあると考えています。
「老視矯正レンズを選択しよう」あるいは「使わないけれど、できるだけ眼鏡に依存したくない」と考えている皆さんに、手術前に理解してほしいことがあります。
①より近くが見えるものがよい?
私たちの生活は新聞や文庫本あるいはA4用紙の書類のようなアナログ媒体から、パソコン、タブレット、スマホを使用した生活に移行が進んでおり、30センチの距離が見える必要性は低下してきています。仮に手術前には30センチで書類を見ていたとしても、手術後は書類スタンドなどを使用することで50センチ程度の距離で見たり、スマホを少し大型のものに替えて見えやすくしたりする、といった工夫が可能であれば、コントラストの良いレンズが使用できるでしょう。
近くを見えやすくすればするほど基本的には遠方のコントラストが低下し、異常光視現象は強くなることを強調しておきます。
②選定療養か自由診療か
選定療養は追加費用を負担することで保険適用と適用外の治療を併せて受けられる枠組みです。選定療養で手術可能な老視矯正レンズは大手メーカー製が多くを占めます。一方、自由診療の場合には個人輸入という方法で選択できるので、日本の臨床試験を必要とせず、また認可申請も不要なため、大小さまざまなメーカーのものが使用できます。
自由診療で使用されるレンズの中には、構造的にコントラストと視力に優れるものもあります。一方で、後の連載で触れますが、ピントが手術前の想定とずれていたときに対応できなかったり、医療機関によって金額が自由に決められるがゆえに法外な価格を提示されたりする場合もあります。また、厚生労働省が認可していないレンズなので、レンズ自体に欠陥があった場合の補償がありません。これらを踏まえてレンズの選択をしましょう。
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(2025/04/01 05:00)