ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界

努力で治せる?
~遺伝子も環境に合わせ変化~ 【第6回】

 「さあ願いを言え。どんな願いでも一つだけかなえてやろう」。こう言われたら、皆さんは何をお願いするでしょうか。私は色盲を治したいかというと、そうでもありません。もっと改善したい、優先順位の高いことはいっぱいあります。身長があと15㎝欲しい、住宅ローンを完済してください…。

 こんにちは。さまざまな可能性のある長瀬です。上記の通り、「色覚異常で困っているか」「色盲は色弱より困るケースが多いか」と問われると、そうでもないのです。108以上の煩悩に比べると微々たる問題です(個人差があります)。私にとっては仕事で生かせる特性だし、カミングアウトもしています。ネガティブに考えていません。環境づくりもうまくいっています。

 では色覚特性が努力で治せるとしたら、その可能性があるとすればどうでしょう。「努力してみようかな」と考える人は多いと思います。前回に引き続き、私とまー君のお話を続けていきましょう。果たして色覚特性は治せるのでしょうか。前回は遺伝のお話をメインに、私とまー君の自覚が違う原因を追いました。診断ミス、遺伝子の相違という二つの仮設を考えましたが、どちらも説明に穴が見つかりました。どうやら遺伝の問題ではないようです。そしてきょうお話しするのが三つ目の遺伝子が成長した可能性です。

 ◇細胞づくりでミス発生

 遺伝子が次の世代に受け継がれるとき、その遺伝情報は書き換わることなく伝わります。ところが、生きとし生けるものはすべて成長します。生きていく上で環境に合わせて変化を遂げます。遺伝子も例外ではありません。ドイツのエピジェネティクス研究所から2017年、こうした発表がありました。

 では、パイロットランプの発光ダイオード(LED)の赤と緑を判別できない私と、判別できるまー君は何がどう違うのか。まー君はどう成長したのか。遺伝ではなく、遺伝子のお話をしてみましょう。

 ヒトは眼球をつくるとき、視神経を細分化して色を感じる錐体(すいたい)細胞をつくります。まず、赤を認識するL細胞と青担当のS細胞をつくってみます。ところが、これでは赤と青の中間色がよく分かりません。ヒトの眼球が二つあるのは、右目の映像と左目の映像の誤差を脳で解析し、その誤差によって見えた物の距離感を認識するためです。錐体細胞についても、同じように誤差を認識するため赤の細胞をコピーして少しだけ書き換え、緑担当のM細胞をつくります。これが通常の流れです。

 ここでミスをすると色覚特性が発生します。例えば、初期の段階で赤の細胞をつくるつもりが最初から緑の細胞をつくってしまった、コピーするときに書き換えを忘れて赤の細胞を大量につくった、均等なバランスではないコピーを行った、書き換えが不十分でうまく働かなかった、書き換えが半端で赤も緑も判別してしまうハイブリッド細胞が出来たなど、ミスは本当にいろいろ起きます。遺伝子は神が創った奇跡とよく言われますが、この辺りは細部の詰めが甘かったのかバグ(欠陥)が多めです。

 繰り返しになりますが、私はⅡ型2色覚で緑のM錐体がないか、機能していません。前回お話しした通り、これはまー君にも共通しているはずです。努力と根性によって赤の細胞をハイブリッド細胞に変換できれば、あるいは緑のM細胞づくりに挑んで成功すれば、色盲が色弱になるかもしれません。ここまでは夢の話です。

 ドイツの研究所が発表したのは、実は成長ではなく「スイッチのオンオフができる」ということです。私の色覚に限って言うと、赤の細胞が働き過ぎて緑を見ても全部「これは赤です」という誤判定をしてしまいます。それなら赤の細胞のスイッチを半分くらいオフにしてしまえば、「赤だと思うけど…。自信ないです」というふうに迷いが出る、緑に見えなくもない、ということにならないでしょうか。持てる能力をあえて削ることで真の実力が発揮できる。剣術における心眼のような、少年漫画のような展開です。推測の話ばかりで申し訳ありませんが、まー君は一部錐体をスイッチオフにすれば色覚の幅が広がることに後天的に気付いた可能性が高いとみられます。

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