ダイバーシティ(多様性) 当事者が見た色覚特性のキラキラした世界

努力で治せる?
~遺伝子も環境に合わせ変化~ 【第6回】

フランス料理(イメージ)

フランス料理(イメージ)

 ◇長年の訓練でずれ補正か

 さて現実に話を戻します。まー君は小学生の頃から「料理人になりたい」と言っていて、その夢をかなえた努力の人です。本当にすごいと思います。20代丸々遊んでいた私が並べて語ること自体、おこがましい存在です。料理に対して約40年真摯(しんし)に向き合ったまー君は、目で楽しむという側面のあるフィールドで、意識的かどうかは分かりませんが、毎日訓練をしていたはずです。食材の色、ソースの色、皿に盛り付けた際の色のバランス、食器もそうです。そうした彩りの訓練を毎日、長い年月にわたって続けてきた結果、まー君がスイッチのオンオフを駆使して色弱レベルにまで色覚のずれを補正できるようになったのでは、と思わずにいられません。

 まー君の場合、意図的な視覚訓練ではないので、長年培った経験値補正も当然あると思います。しかし、この私の夢物語がもしも事実と分かり、体系化され、効率的な訓練が見つかればどうか。色覚はアトピーや近視のように、抑制できる可能性が膨らんできます。同時に、まー君の子孫にはスイッチのオンオフが上手になったDNAが遺伝されるはずです。もし、まー君の孫に男の子が生まれたら、色覚チェックはぜひ私にやらせてもらいたいですね。あくまでも仮説を並べ立てているだけでエビデンス(科学的根拠)も何もない妄想ではありますが、そういった研究方針もあり得るのではないかと考え、思い切って書いてみました。

 では次回のお話です。色覚特性のある人の目の中で何が起きているのか、普通の人々と比べ何が違うのか、もう少し根本を探ってみましょう。誤認のシステムとそれを治すシステムについて説明します。前々回のお話に出てきたネオダルトンの色覚補正レンズはどうやって色覚特性のずれを補正してくれるのでしょうか。(了)

 〔お断り〕この連載では、文章の趣旨を的確に伝えるため、現在は使用を控えるようになった「色盲」「色弱」という言葉を必要に応じて用いています。

 長瀬 裕紀(ながせ・ゆうき) 1級眼鏡作製技能士。過去に量販眼鏡店に就職するも勉強不足を痛感。修行のため眼科コメディカルとして10年弱勤め、年間3500人以上の目のケアに携わる。認定眼鏡士SS級のプロとして現在は吉祥寺の眼鏡店(グラストリーイカラ https://www.g-ikara.jp/)で勤務し、2022年度から始まった国家資格「眼鏡作製技能士」の試験に合格した。自身の体験談を踏まえた色覚特性のブログが人気を博し、数多くの問い合わせや相談が寄せられている。

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