子宮腟部びらん〔しきゅうちつぶびらん〕 家庭の医学

 子宮は月経血の流出口や精子の侵入口である頸(けい)部と、妊娠中に胎児が育つ体部に分けられます。子宮頸部のうち、腟腔(ちつくう)に面する部位を特に子宮腟部といいます。
 思春期以前は、この子宮腟部の表面は重層扁平上皮(じゅうそうへんぺいじょうひ)におおわれていますが、思春期以降閉経(へいけい)までは、子宮頸管粘膜が子宮腟部にせり出しています。頸管粘膜は1層の円柱上皮でおおわれているだけなので、子宮口を中心に粘膜下の組織や毛細血管が赤く透けて凹凸あるびらん面に見えます。これを子宮腟部びらんといいます。
 もし、表層の上皮が欠損していると真のびらんといいますが、子宮腟部びらんは薄いとはいえ、1層の円柱上皮でおおわれているので、本当はみかけ上のびらんです。性成熟期の女性では、面積の差はあれ子宮腟部びらんは生理的にみとめられます。腟部びらんを構成する1層の円柱上皮は、閉経までにはゆっくりと厚い重層扁平上皮に変化していきますので、閉経後の女性では腟部びらんはみとめられなくなります。

[症状]
 頸管粘膜の外へのせり出しが激しく、びらん面積が広くなると、エストロゲン(月経周期に一致して増加する女性ホルモン)に依存して分泌物が増量するばかりでなく、接触刺激(性交渉)や化学刺激(精液など)を受けて接触出血、炎症を起こしやすくなります。また、腟内の雑菌や真菌、さらには子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)などの感染も受けやすくなります。

[治療]
 治療の基本は、びらん面積を縮小し外界からの刺激を受けにくくすることです。びらんをレーザー光や、液体窒素、電気凝固などで破壊すると2カ月ほどで粘膜が再生してきますが、その際には1層の円柱でおおわれていたびらん面は重層扁平上皮に置き換わります。

(執筆・監修:千葉大学大学院医学研究院 教授〔生殖医学〕 甲賀 かをり)
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