子宮肉腫〔しきゅうにくしゅ〕 家庭の医学

 子宮肉腫は子宮にできる悪性腫瘍の一つです。悪性腫瘍の大部分は、上皮細胞が悪性化して増殖する「がん」です。いっぽうで「肉腫」は、筋肉細胞や脂肪細胞、骨細胞などにできる悪性腫瘍であり、「がん」とくらべると患者さんの数は少ないです。子宮肉腫も子宮にできる悪性腫瘍としては、まれなものです。子宮は腟側で入り口の部分に当たる「頸(けい)部」と奥にある「体(たい)部」に分かれ、がんの場合は「子宮頸がん」と「子宮体がん」に分かれますが、肉腫の場合には頸部と体部に分けて区別せずに、子宮肉腫として一括で扱われます。子宮肉腫は、子宮の筋肉の細胞が悪性化して増殖する平滑筋肉腫、子宮内膜を構成する支持組織である間質細胞が悪性化して増殖する子宮内膜間質肉腫、子宮内膜もしくは筋層から発生したと考えられるものの由来する細胞がはっきりとしない未分化肉腫があります。

[原因]
 子宮肉腫ができる原因はわかっていません。過去に下腹部に放射線治療を受けたことのある女性や乳がんに対するホルモン療法(タモキシフェン)を受けている女性は、子宮肉腫に注意が必要といわれています。ただし、放射線治療やタモキシフェン治療は必要があっておこなうものですので、子宮肉腫になることをおそれて適切な治療を受けないというようなことがないように医師とよく相談してください。

[症状]
 子宮肉腫の症状には腹痛や性器出血、腹部膨満(ぼうまん)感、頻尿などがありますが、子宮肉腫だけに特徴的な症状というわけではありません。子宮肉腫は比較的進行が早いため、症状に気がつく前に病状が進行しているということもあります。子宮肉腫は50歳代から60歳代の女性に発症することが多いとされていますが、すべての年齢で発症することがあります。

[診断]
 子宮肉腫を発見するための有効なスクリーニング検査はなく、婦人科検診で見つかることが多い子宮頸がんとは異なり、検診で見つかることは多くはありません。腹痛や性器出血などの症状があって、子宮腫瘍が疑われる場合には、経腟超音波断層法検査、CT検査、MRI検査などの画像検査をおこないます。子宮腫瘍の多くは良性の子宮筋腫ですが、これらの画像検査で子宮肉腫の可能性が高いと診断されることがあります。CT検査やMRI検査で造影剤を併用すると子宮肉腫と子宮筋腫を見分ける診断の精度が上がります。子宮以外の転移病巣があるかどうかを調べるためにPET-CT検査をおこなうこともあります。血液検査で腫瘍マーカー(LDHやNSEなど)が上昇することもありますが、上昇しないことも多いため、診断の補助や経過観察の際に参考として用いられる程度です。
 子宮頸がんや子宮体がんの診断に有効である子宮頸部細胞診、子宮内膜細胞診、子宮内膜生検による病理組織診などの病理検査は、子宮肉腫の診断には有効でないことが多いです。画像検査や血液検査で子宮肉腫が疑われる場合には、可能であれば手術で子宮ごと摘出して病理検査で診断します。子宮摘出ができない場合には、針生検(CTガイド下など)をして病理組織検査をおこなうことも考慮されますが、大出血や感染などのおそれもありますので注意が必要です。

[治療]
 子宮肉腫の治療の主体は手術療法です。手術療法では肉腫の病変を完全に取り除くことを目的として、子宮のほかに卵管、卵巣、腟の一部を摘出します。転移病巣があって摘出可能であれば、同時に転移した臓器も摘出します。いっぽうでリンパ節に関しては、術前の画像検査などでリンパ節転移が疑われるときには手術時にリンパ節郭清もおこないますが、転移が疑われない場合にはリンパ節郭清はおこなわない場合が多いです。このことは子宮体がんや子宮頸がんとは異なる点です。術前に子宮肉腫かどうかはっきりしていない場合で、将来の妊娠のために子宮温存を希望するときには、腫瘍摘出のみをおこない子宮の大部分を残す手術を選択する場合もあります。結果的に子宮筋腫などの良性腫瘍であれば子宮を温存することができますが、子宮肉腫だった場合には不完全な手術により病状が進行してしまうおそれもあります。
 手術の前に病変を縮小させる、もしくは手術の後に取りきれなかった残存病変を縮小させることを目的として抗がん薬による化学療法をおこなうことがあります。化学療法は点滴治療でおこなわれることが多く、一種類の薬剤(単剤治療)もしくは異なる種類の薬剤を組み合わせます。
 最近ではさまざまな悪性腫瘍の化学療法に関する臨床試験が実施されています。現時点でもっとも効果があり副作用も許容されると考えられる標準的な化学療法(標準治療)はそれらの臨床試験により選ばれます。比較的患者数が多い子宮頸がんや子宮体がん、卵巣がんでも標準治療が臨床試験の結果により決まっています。いっぽうで子宮肉腫は患者数が少ないため、臨床試験をおこなうのに十分な患者さんを集めることができず、子宮肉腫の標準治療を決めることはむずかしいのが現状です。したがって、子宮に限らずさまざまな臓器の肉腫患者さんを集めておこなわれた臨床試験の結果をもとにして化学療法を選択しています。抗がん薬による化学療法のほかには、ホルモン療法が子宮内膜間質肉腫の一部に有効であることがわかっています。また、最近では比較的新しい治療薬として分子標的治療薬(パゾパニブ)が内服治療として用いられることもあります。
 骨盤内で病変がひろがっていて子宮が摘出できない場合や、体調が全身麻酔の手術に耐えられないと判断される場合、腫瘍のひろがりにより痛みがあったり運動麻痺があったりする場合には放射線治療が選択されることもあります。放射線治療のみで病気の治癒を期待することはむずかしいですが、病状の進行を遅らせたり、つらい症状を緩和させたりすることができます。

(執筆・監修:東京都立駒込病院 緩和ケア科 医長 鶴賀 哲史)