病気の治療が生活自立や社会的な環境に左右されやすい 家庭の医学

 糖尿病を例にとると、治療の要点は、食事療法、内服療法、インスリン注射に分かれます。
 食事療法では、適切なエネルギー量と高血圧にも配慮した食事が求められますが、独立してこれを達成するには「食材の買い物」「炊事能力」が求められます。85歳以上では、20%の人が買い物と炊事に不便を感じており、高カロリーでバランスのわるい弁当や外食ですます場合には、医療機関でのせっかくの食事指導が台無しになります。
 これを補うためには、食材配達サービスの利用、管理栄養士の指導などが考えられるものの、実際には家族の支援が必要です。ところが子ども夫婦が共働きなどの場合には、弁当ですますケースも多く、血糖コントロールがわるい例もあります。
 服薬管理は処方された薬を指定された時間にのむことですが、85歳以上では6人に1人は自分で管理できていません。糖尿病では平均7薬剤が処方されており、治療上の安全においても大問題です。処方数の厳選と簡略化と家族やデイサービス(日帰り介護)利用時に服薬を依頼するなどの工夫が求められます。
 インスリン注射は自己管理がたいへんで、認知機能の低下した場合は不可能でかつ重複注射での低血糖の危険もあります。不十分でも割り切って内服治療に変えてもらう必要があります。
 いっぽう、大震災での避難者や高層住宅の高層階居住者などではうつの発生率が高く、「過食」「拒食」など生活習慣のコントロールには、社会的ストレスの影響を過小評価してはいけないと思います。

(執筆・監修:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 理事長/国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐 鳥羽 研二)
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