インターベンショナル・ラジオロジー(IVR)画像下治療 家庭の医学

 IVRは、Interventional Radiology(インターベンショナル・ラジオロジー)を略したもので、画像誘導下におこなう診療手技の総称です。なお、日本では 「IVR(アイ・ヴイ・アール)」と略しますが、国際的な略称は 「IR(アイ・アール)」です。適切な日本語表記がないまま、IVRと略称されてきましたが、理解しやすさが考慮され、近年になり「画像下治療」と表記されるようになりました。
 さて、IVR(画像下治療)は、X線透視、超音波、X線CTといった画像診断装置を用いて、からだの中を透見しながらおこなわれます。経皮的そして経管的に病巣に到達し、さまざまな診断・治療手技をおこなうために、針やガイドワイア、カテーテルといった特殊なデバイスが用いられます。それぞれのデバイスはいずれも数㎜と細いため、からだには小さな創が残るだけです(低侵襲)。さらに、すみやかに治療効果が得られること(迅速)、そしていろいろな病態に対応できること(多様性・汎用性)もIVRの特徴です。
 がん診療では、さまざまなIVRが用いられており、症状緩和を目的としたIVR、診断や治療(手術療法や薬物療法)を補う支持的IVR、そして抗腫瘍効果を目的としたIVRに大別されます。がん診療では、病状の進行だけでなく治療によっても望ましくない病態が引き起こされ、患者さんにとって不愉快な症状をもたらすこともまれではありませんが、IVRはそうした状況において、低侵襲ですみやかな症状緩和を得るのに役立ちます。また支持的IVRは、病気・病期の診断や治療法の選択、治療法の選択の幅をひろげるのに役立ちます。くわしくは日本IVR学会で作成された下記の動画も参考にご覧ください。

IVR啓発動画(日本IVR学会)
イラスト解説編
がん治療編

 抗腫瘍効果を目的としたIVRには、肝悪性腫瘍に対する肝動脈化学塞栓(そくせん)療法や、肝悪性腫瘍や頭頸部がんなどに対する動注化学療法、肝がんに対するラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法やマイクロ波焼灼療法および腎がんに対する凍結療法といった腫瘍アブレーション療法があります。
 肝動脈化学塞栓療法は、腫瘍の栄養動脈から抗がん薬と塞栓剤を注入して腫瘍を壊死(えし)におちいらせる治療で、わが国で開発され、現在(2023年5月)世界的に肝細胞がんに対する標準治療の一角を支えています。
 動注化学療法は、抗がん薬を腫瘍栄養動脈に選択的に注入し、高濃度の薬剤を分布させて抗腫瘍効果を高め、薬剤を局所的に使用することで全身的な副作用の軽減をはかろうとした治療で、悪性肝腫瘍や頭頸部悪性腫瘍に適応されています。血管内にカテーテルと呼ばれる細い管をあらかじめ留置し、リザーバーという器具に接続してこれを皮下に埋め込んでおこなうリザーバー動注化学療法では、反復的あるいは持続的な治療を入院せずに実施することができます。
 腫瘍アブレーションには、専用の針を画像誘導下に腫瘍あるいは腫瘍の近傍へ経皮的に刺入し、ラジオ波やマイクロ波によって焼灼する(ラジオ波焼灼療法・マイクロ波焼灼療法)、あるいはアルゴンガスを用いて針の先端を超低温にして腫瘍を凍結させる(凍結療法)があります。これまではラジオ波焼灼療法、マイクロ波焼灼療法が肝悪性腫瘍に、凍結療法が小径腎がんに保険適用されているのみでしたが、2022年9月にラジオ波焼灼療法の適応が、小径腎がんや、標準治療が効かないまたは向かない「肺悪性腫瘍」「悪性骨腫瘍」「類骨骨腫」「骨盤内悪性腫瘍」「四肢、胸腔内および腹腔内に生じた軟部腫瘍」にも拡大されており、がん治療に貢献するものと考えられます。

(執筆・監修:公益財団法人 がん研究会 有明病院 超音波診断・IVR部 部長 松枝 清)