がんの痛みの治療 家庭の医学

 がんが進行すると痛みが強くなりコントロールできなくなることを心配されている方も多いのではないかと思います。がんが進行すると痛みを経験する人はたしかに多くなりますが、痛みに適切に対応することにより、多くの場合、世界保健機関(WHO)が最適な鎮痛目標とする「許容できるレベルまで痛みを軽減し生活の質(QOL)を維持できるようにする」ことが可能です。
 がんの痛みの治療の基本は、薬による治療になります。以下のようにWHOが定める4つの原則にもとづいて薬による治療をおこないます。

●がんの痛みへの鎮痛薬使用の原則(WHO)
■経口で
 鎮痛薬は内服などできるだけ簡便な方法で投与する

■時間を決めて
 鎮痛薬を適切に決められた時間間隔で投与する

■患者ごとに
 治療への反応は個人や薬剤によって異なるため、許容できるレベルまで痛みが軽減するように副作用に注意しながら鎮痛薬を十分に増量する

■そのうえで細かい配慮を
 服薬タイミングや副作用対策などについて細やかに対応する


 がんの痛みの治療に使う薬には、非オピオイド鎮痛薬、オピオイド、鎮痛補助薬があり、患者さんの状態や痛みの種類に合わせて、これらの薬を組み合わせて使用することによって痛みをやわらげます。非オピオイド鎮痛薬は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンがあり、使用できる量には上限があります。オピオイドは、オピオイド受容体に結合して作用を示す物質の総称で、モルヒネなど医療用麻薬に指定されているものもあります。オピオイド使用時における頻度の高い副作用は眠気、吐き気、便秘ですが、副作用が生じた場合にもオピオイドの使用量を調節したり、吐き気止めの薬や便秘治療薬などをうまく併用したりすることで対処できます。オピオイドは、臓器障害を起こしにくく、使用できる量に上限がないものが多いため、鎮痛効果を認め副作用が問題ない場合には、患者さんごとに個別に必要な量までふやすことが大切です。鎮痛補助薬は、鎮痛薬と併用することで鎮痛効果を高め特定の状況下で鎮痛効果を示す薬で、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、ステロイド、骨修飾薬(骨転移の進行や症状を抑える薬)などの分類の薬が該当します。
 薬だけの治療よりもより質の高い鎮痛が得られる可能性がある場合には、薬以外の治療法も並行しておこないます。特に、放射線治療はがんの痛みの治療には欠かせない治療です。がんの痛みの原因となっている部位に放射線を照射することで痛みが軽減します。痛みの種類によっては、温めたり冷やしたりすることや、リハビリテーション、鍼灸(しんきゅう)、心理療法などが有効である場合もあります。また、痛みが難治性である場合には、メサドンというオピオイドの使用、神経ブロック、脊髄鎮痛法といった専門的な鎮痛法をおこなうこともあります。
 がんの痛みの治療はがん治療と並行しておこないます。がん治療などにより痛みの原因への対処ができた場合には、鎮痛薬の減量や中止が可能となることもあります。
 痛みはさまざまな因子の影響を受けるため、からだのつらさ以外にも気持ちのつらさ(落ち込み、不安、混乱など)、社会的なつらさ(仕事・家庭・経済面での問題など)、実存的なつらさ(自分の人生や存在意義を問うようなつらさなど)が存在することにより、痛みをより強く感じてしまうこともあります。そのため、痛みをはじめとしたさまざまなつらさは、独りで抱え込んでがまんすることがないように、医療従事者や周囲の人に伝えて一緒に取り組むことがとても重要です。

(執筆・監修:公益財団法人 がん研究会 有明病院 緩和ケアセンター長 松本 禎久)

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