人工妊娠中絶術 家庭の医学

 人工妊娠中絶は妊娠週数や出産経験の有無などによって方法や危険性、さらにはかかる費用が変わってきます。

 初期(妊娠12週未満)におこなう手術は、胎児とその付属物(将来胎盤をつくる組織・卵膜など)を取り除く子宮内容除去術で、吸引法(器械で吸い出す方法)または掻爬(そうは)法がおこなわれます。ほとんどの場合、あらかじめ子宮頸管(けいかん)内に細い滅菌した棒状の器具を挿入しますが、これは2時間くらいたつと、周囲の水分を吸って膨張し、穏やかに頸管が拡張します。その後、静脈麻酔をして、この棒状の器具を抜去してから手術します。痛みもなく、10~15分程度で手術は終わり、出血も少ないので、体調などに特に問題がなければ、数時間休んでその日のうちに帰宅できます。
 最近では、妊娠9週0日以前のごく初期の場合に、経口中絶薬を用いた方法で人工妊娠中絶が一部の施設でできます。2023年8月現在は、母体保護法指定施設で、かつ入院病床のある登録施設でのみおこなうことができます。方法はミフェプリストンという妊娠の維持に必要なホルモンを抑える薬とミソプロストールという子宮を収縮させる薬との組み合わせでおこないます。母体保護法指定医の面前で最初のミフェプリストン1錠を服用し、服用36~48時間後に2つめのミソプロストールを口の中(両頬に2錠ずつ合計4錠)に30分間含んだのちにのみ込みます。2つめの薬を服用後おおよそ8時間以内に子宮内容物が排出されて中絶は完了します。しかし、胎児や胎児付属物などが子宮内に遺残することもそれなりにあり、追加で手術が必要となる場合も少なくありません。なお、経口中絶薬を用いた方法のほうが出血量は多く、麻酔を用いて短時間でおこなう人工妊娠中絶手術とは異なり、中絶が完了するまで、持続する腹痛や胎児が包まれた比較的多量の血塊などを目にするリスクもあります。

 中期(妊娠12週以降22週未満)におこなう手術は胎児がかなり成長しているため、初期のような単純な方法のみでは取り出せません。通常は、子宮頸管拡張の操作を時間をかけておこない、その後、強力な子宮頸管拡張作用と子宮筋の収縮作用をもつプロスタグランジン製剤の腟坐薬を3時間ごとに挿入して、陣痛をつけてお産のようなかたちで胎児を外に出します。ぜんそく緑内障などの病気のある人はこの薬は使えないため、代わりにメトロイリーゼと呼ばれるゴム風船のような器具を子宮の中に挿入し、これをふくらませて牽引(けんいん)しながら、さらに子宮収縮薬の点滴を用いて、分娩と同じように陣痛をつけておこなうこともあります。頸管拡張術開始から手術終了までに2~3日要することもしばしばあります。胎児と胎盤が子宮から娩出(べんしゅつ)したあとにも、胎盤や卵膜の一部が子宮内に残りやすいため、原則として最後に軽く子宮内掻爬術もおこないます。
 妊娠週数が進むと手術の際にいろいろなトラブルが起こりやすく、術後の感染の可能性や乳汁分泌・乳房緊満などもみられます。妊娠を継続できないのならば、早く医師に相談しましょう。
 12週以降に中絶手術を受けた場合には、術後7日以内に、手術をおこなった施設のある市区町村長に医師・助産師の死産届を提出し、埋葬許可書を発行してもらう必要があります。また医療機関によっては12週以降の手術をおこなわないところもありますので事前に確認してください。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子
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