[症状]
アルツハイマー病は、通常60歳以降にいつとはなしに記銘力低下(もの忘れ)が始まり、進行します。初期には人格は保たれ、人との応対をそつなくこなしたり、態度や礼節も保たれることが多いのが特徴です。やがて見当識(どこにいるか、いまはいつか、目の前の人はだれかなどの認識力)の障害があらわれます。日時がすぐに思い出せなくなり、暗算もできなくなります。家から出かけると帰れなくなることがありますが、これは空間を認知することの障害によります。
アルツハイマー病では失語、失行や失認を伴いやすくなります。たとえば着衣失行では服を着る順序がわからなくなります。まれにはパーキンソン症状、不随意運動、けいれんを生じることもありますが、大多数で運動機能は正常です。
[進行度]
アルツハイマー病はいつとはなしに始まり、すこしずつ常に進行していきます。進行度をふつうは3期に分けて考えます。
第1期…大脳皮質の機能が全般的に低下していきます。最近のできごとを忘れやすくなり、そのいっぽうでむかしの記憶はよく保たれています。精神的には意欲が減退してきて、自発性が低下します。時に怒りっぽくなり、不安感、焦燥感にかられたり、抑うつ状態になったりします。見当識もすこしずつ失われていきます。しかしながら、自立して日常生活を送ることは可能です。
第2期…大脳皮質の萎縮が進み、局所的な症状が加わっていきます。記憶や記銘力はいちじるしく低下し、ことばも忘れてしまいます。その結果、ことばを言い換えたりすることができなくなり、理解力も障害されるために会話が成立しなくなります。服を着たり、一定の動作をするなどができなくなり、場所や月日の認識ができなくなります。周囲に無関心となり、なにかをしたいという意欲がなくなります。
やがておちつきがなくなり、夜間の徘徊(はいかい)が始まります。この時期には周囲の介助や監視も必要になります。
第3期…高次の脳機能がいちじるしく障害され、人間らしい行動が不可能になります。ベッド上に寝たきりとなり、尿便を失禁します。汚れた下着を隠したり、便をさわったり、その便を物にすりつけたりなどの不潔行為も目立ちます。やがて肺炎を併発して亡くなることが多くあります。
[原因]
アルツハイマー病は少数で優性遺伝を示しますが、大部分は遺伝ではありません。脳を顕微鏡で見ると、大脳全体が萎縮し、神経原線維変化や老人斑といわれる異常をみることができます。神経原線維変化というのはタウたんぱくが神経細胞内に蓄積したもので、老人斑はアミロイドβたんぱくが神経細胞外に蓄積してできた脳のしみのようなものです。
アルツハイマー病の原因はまだ不明ですが、起こしやすくする因子は次のことが考えられています。
①高齢であること、②家族歴があること、③過去に頭部外傷があること、④血清にアポリポたんぱくE
4をもっていること、⑤運動習慣がなく、喫煙していることです。
このうち、アポリポたんぱくは、血中ではコレステロールを運搬するはたらきをしていますが、脳の中では神経細胞を支持する細胞から分泌されて、神経細胞の補修に携わっています。アポリポたんぱくには第19染色体の多型であるE
2、E
3、E
4の3種類があります。
遺伝子にはこれらのどれか2つがペアになっています。たとえば、E
2-E
2とか、E
3-E
4などです。このようにして、E
4を1つだけもっているのは人口の20%を占め、アルツハイマー病になる危険性は2~4倍となります。E
4を2つ、つまりE
4-E
4としてもっているのは人口の2~3%にすぎませんが、アルツハイマー病になる危険性は5~15倍になります。
[診断]
以上のような認知症が徐々に進行する臨床症状にあわせて、次のような補助検査をおこないます。
・脳波…初期には正常ですが、やがてα(アルファ)波が少なくなり、おそいθ(シータ)波が混在し、ふえてきます。末期にはすべておそい波だけになり、やがて平たんな波形になります。
・CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)…初期には年齢相応の変化のみですが、やがて発症1~2年を過ぎるころから脳の萎縮があきらかになってきます。
・SPECT(脳血流シンチグラフィ)…CTやMRIで脳の萎縮があきらかになる前から、脳血流の低下が目立ってきます。特に頭頂葉、側頭葉で低下が顕著です。
[治療]
日常気をつけることは、昼と夜のリズムを大切にすることです。明るいうちはなるべく外に連れ出して公園などを散歩し、暗くなったら早めに床につかせます。患者のいうことには基本的に逆らわないことが大切です。
むかしの記憶に結びつくようなもの、たとえば人形、写真、服などを「思い出ボックス」に入れておき、不安感から興奮したときなどに見せると、おちつきを取り戻すことがあります。
アルツハイマー病では、脳内のアセチルコリンという化学物質が低下することが知られています。これは神経伝達に重要なはたらきをする物質です。このアセチルコリンを分解する酵素のアセチルコリンエステラーゼを阻害する薬がつくられました。それがドネペジルなどの薬剤です。認知機能と重症度が有意に改善することが示されています。しかしながら、いつまでも効果があるというわけではなく、やがてはまた悪化する時期がやってきます。
【参照】高齢者と病気:
認知症
(執筆・監修:一口坂クリニック 作田 学)
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