中国・Tianjin Medical UniversityのShuqi Wang氏らは、UK Biobankのデータを解析した結果、「心肺持久力(cardiorespiratory fitness;CRF)が高い人は認知機能に関する神経心理学的検査のスコアが高く、後年の認知症発症リスクは低い。また、アルツハイマー病(AD)関連遺伝子を有する人でも、CRFが高いと発症リスクが35%抑制される」とBr J Sports Med(2024年11月19日オンライン版)に報告した。
亜最大運動試験でCRFを評価
CRFとは、循環器/呼吸器系による骨格筋への酸素供給能力を指す用語であり、最大運動試験で推計したCRFが認知機能や認知症リスクと関連するとの報告がある。しかし、対象年齢により相反する報告もあり、一貫した結果は得られていない。最大運動試験は最も正確なCRF評価手段だが、疲労困憊までの運動が求められるため、比較的健康な人にしか実施できないという欠点がある。
一方、亜最大運動試験(submaximal exercise test)は、心拍反応の増加と仕事量(work rate)の関係からCRFを推計する試験であり、最大運動試験よりも安全、廉価、実施が容易といった点から、大規模な疫学研究におけるCRF評価に適している。また、年齢や性、安静時心拍数、BMI、身体活動などからCRFを推計する非運動性の予測式に比べ、はるかに正確である。
Wang氏らが今回対象としたUK Biobankの集団は、2006~10年に登録された37~73歳の英国住民であり、登録時に全国22カ所の評価センターで亜最大運動試験(4誘導心電図モニターを装着しながらサイクリングマシンで6分間の運動)によりCRFを評価し〔最大酸素消費量を算出し、metabolic equivalents(METs)として提示〕、三分位(低度CRF、中等度CRF、高度CRF)に分類した。
認知機能については、展望記憶、視覚記憶、言語/数字記憶、処理速度を評価する神経心理学的検査を行い、各検査の平均スコアから全般的認知機能を算出。さらに標準的な多遺伝子リスクスコア(PRS)でADに関連する遺伝子リスク(PRSAD)を求めた。
高CRFでは展望記憶、言語/数字記憶、処理速度が高い
6万1,214例(平均年齢56.33±8.15歳、女性51.96%)が最終的に解析対象となった。低度CRF群(2万408例)、中等度CRF群(2万405例)、高度CRF群(2万401例)のCRF(METs)平均値はそれぞれ、-1.02±0.40、-0.10±0.23、1.12±0.71だった。
CRFを連続変数とした重回帰分析では、CRFが1標準偏差(SD)増えるごとに全般的認知機能〔標準化偏回帰係数(β)=0.03、95%CI 0.02~0.03〕、展望記憶(β=0.03、同0.02~0.04)、言語/数字記憶(β=0.05、同0.05~0.06)、処理速度(β=0.03、同0.02~0.04)がいずれも有意に良好であることが確認された(全てP<0.001)。
CRFをカテゴリー変数として分析した場合は、低度CRFに比べ、中等度CRF/高度CRFでは全般的認知機能(β=0.03、95%CI 0.02~0.04/β=0.05、同0.04~0.07)、展望記憶(β=0.04、同0.01~0.06/β=0.06、同0.04~0.08)、言語/数字記憶(β=0.05、同0.03~0.07/β=0.11、同0.09~0.13)、処理速度(β=0.04、同0.02~0.06/β=0.06、同0.04~0.08)がいずれも有意に良好であった(展望記憶の中等度CFRのみP=0.001、その他は全てP<0.001)。
認知症発症時期を遅らせ遺伝子リスクも軽減
認知症発症リスクについては、低度CRF群に比べ、高度CRF群の罹患率比(IRR)は0.60(95%CI 0.48~0.76)と有意に低く(P<0.001)、低度CRF群に比べ発症を1.48年(95%CI 0.58~2.39年)有意に遅らせた(P=0.001)。
また、高度CRF群ではPRSADが中等度/高度の例でもIRRは0.65(95%CI 0.52~0.83、P<0.001)と、認知症発症リスクが有意に35%抑制された。
以上の結果を踏まえ、Wang氏らは「ベースラインでCRFの高い人は認知機能が良好で、長期的な認知症リスク軽減との関連も認められた。また、高いCRFは認知症発症に関わる遺伝素因の影響を35%軽減する可能性がある」と結論している。
(医学ライター・木本 治)