日本神経学会は昨日(4月14日)、「高額療養費制度負担上限額引き上げに関する声明」と題する4月12日付の声明を西山和利代表理事名義で公式サイトに掲出。神経疾患領域では、アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体をはじめとする革新的治療法の登場により、多くの難治性神経疾患の治療が可能となりつつある。一方で、これらの治療法は高額な薬価が設定されていることから、同学会は公的保険制度の維持や保険料負担軽減の議論は必要と一定の理解を示した上で、十分な調査に基づく国民への丁寧な説明がなされたとは言い難いと指摘。「多くの神経難病は長期的な治療継続が必要であり、治療の中断や遅延は回復不能な神経障害の進行を招き者の生命と生活に深刻な影響を及ぼす可能性がある。制度変更が及ぼす影響について、綿密な調査と分析を実施することを強く求める」としている。(関連記事「リウマチ学会、高額療養費制度に関する見解公表」)

日本の創薬の発展や有効な海外新薬の導入を阻害することも懸念

 近年、神経疾患領域では核酸医薬、抗体医薬、酵素補充療法など、革新的技術による画期的治療法が次々と実用化。脊髄性筋萎縮症、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー、家族性筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、視神経脊髄炎スペクトラム障害、重症筋無力症、ライソゾーム病など、以前は不治の病とされた難治性神経疾患に対しても、進行抑制にとどまらず症状改善が期待される疾患修飾薬が登場している。

 一方、これら治療法の多くは高額な薬価が設定されており、国民皆保険制度の持続可能性と、適切な医療へのアクセス確保の両立という難題に直面している。その対応策として高額療養費制度の負担上限額引き上げが検討されてきたが、日本神経学会は「十分な調査に基づく国民への丁寧な説明がなされたとは言い難く、不安が広がっている」と指摘。

 その上で、全ての神経疾患患者が経済的理由により適切な治療機会を失うことなく、革新的治療の恩恵を享受できる医療制度が維持されることを強く望み、慎重かつ丁寧な制度検討を切に求めるとし、学会としての意見を以下のように表明した。

高額療養費制度は重篤な神経疾患患者が適切な治療を継続するための重要なセーフティーネットである

公的保険制度の維持や保険料負担軽減の議論は必要だが、今回のように議論が不十分な状態で引き上げが実施されれば、経済的理由による治療断念や治療機会の格差拡大につながる

多くの神経難病は長期的な治療継続が必要であり、治療の中断や遅延は回復不能な神経障害の進行を招き、患者の生命と生活に深刻な影響を及ぼす可能性がある

制度設計に際しては、患者・医療関係者、関連学会などに加え、有識者を含め慎重かつ十分な議論を行うとともに、制度変更の影響について綿密な調査と分析の実施を強く求める

医療費抑制への過度な志向が、日本における創薬の発展や有効な海外新薬の導入の阻害となることを懸念する

編集部・関根雄人