不適切ADH分泌症候群(ADH分泌異常症、SIADH)〔ふてきせつADHぶんぴつしょうこうぐん(ADHぶんぴついじょうしょう、SIADH)〕

 血漿(けっしょう)の浸透圧を決めるもっとも大きな要因は、血清ナトリウム濃度です。その正常濃度は135~145mEq/Lで、これを超えると抗利尿ホルモン(ADH)が分泌されて血漿浸透圧が上がるのを抑えます。いっぽう、血漿浸透圧が減少するとADH分泌は低下し、血漿の希釈が防止されます。
 しかし、血漿浸透圧低下(低ナトリウム血症)にもかかわらず、ADH分泌が持続するのがSIADHです。低ナトリウム血症があると食欲不振、吐き気、倦怠(けんたい)感などの症状があらわれ、進行すると、けいれん発作、意識障害、昏睡(こんすい)状態など危険な状態となります。
 原因として、①ADH産生腫瘍によるもの、②中枢神経系疾患や呼吸器疾患によるもの、③薬剤によるものがあります。肺がんなどの腫瘍でADHを分泌するものがADH産生腫瘍で、からだの浸透圧と無関係にADHを分泌するため低ナトリウム血症を進行させます。
 いっぽう、脳梗塞などの中枢神経系の病気や肺炎など胸部の病気、または薬剤でもSIADHが生じます。原因となる病気に対する治療とともに血清ナトリウム濃度を増加させるような治療をおこないます。原則としては飲水量を制限することが大切です。そのほか、ADHの受容体拮抗薬の投与や、緊急の場合には生理食塩水を点滴投与します。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)
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