成長ホルモン分泌不全性低身長症(GH分泌不全性低身長症)〔せいちょうほるもんぶんぴつふぜんせいていしんちょうしょう(GHぶんぴつふぜんせいていしんちょうしょう)〕 家庭の医学

 成長ホルモン(GH)は正常な発育に不可欠です。GHは、肝臓その他の組織に作用してインスリン様成長因子(IGF-1)ホルモンをつくります。IGF-1とGHは骨に作用し、成長を促進します。成長期にこのGHの分泌が不足すると骨の成長が遅れ、低身長になります(GH分泌不全性低身長症)。
 さかごなど分娩(ぶんべん)時の異常による下垂体障害や、小児期の視床下部や下垂体の腫瘍によるGHの分泌障害が原因です。まれに遺伝子異常によってGHが合成されないこともあります。分娩時の障害による場合、出生(うまれた)時の身長は正常ですが、その後しだいに成長が遅れ、平均より大幅に低い身長を示します。健常児では一般的には1年間の身長の伸びは4cm以上で、思春期には10cm近く伸びますが、GH分泌不全症では4cm以下の伸びにとどまります。
 視床下部・下垂体の腫瘍などが原因の場合には、それまで正常であった成長がしだいに遅れてきます。GH欠損による低身長ではからだのつり合いはよくとれ、暦年齢よりは幼くみえます。なお、GHは成長が停止した成人でも分泌されます。成人成長ホルモン(GH)分泌不全症では肥満や脂質異常症(高脂血症)を示すことが多く、筋肉量や筋力も低下します。

[診断]
 低身長(同性同年齢の健常児の平均身長(標準身長)の-2SD以下の身長。注:SDは標準偏差)、または身長が正常範囲であっても、成長速度(身長の伸び)が標準値の-1.5SD以下で経過していること、骨年齢(手の骨のX線写真で骨の発育程度を見て、健常児の何歳の骨に相当するかを判定)が暦年齢よりも遅れること、GH分泌が低下していること、血液中のIGF-1濃度が正常より低いことから判定します。
 GH分泌能力の判定のためにGHの分泌を促進する薬剤を投与して、どのくらい血液中の濃度が上昇するかを調べます。低身長の原因はGH分泌不全性低身長症以外に、甲状腺機能低下症(クレチン症)、骨の病気など多数の病気があります。単に体質的に低身長を示すことも多く、これらと区別することが必要です。
 GH分泌不全性低身長症ではGH単独の分泌の低下(GH単独欠損症)のこともありますが、そのほかの下垂体ホルモンの分泌の障害を伴っていることも多くみられます。

[治療]
 視床下部・下垂体腫瘍のような病変があれば、まずこれに対する治療をおこないます。そのあとに、ヒト成長ホルモンの注射によって低身長に対する治療を開始し、目標の身長に達するまで継続します。
 一般的にGH治療は骨年齢が若いほど効果的で、治療開始1~2年は年間10cm程度の伸びが期待できます。骨年齢が進んで骨端線が閉鎖したあとは身長は伸びません。ほかの下垂体ホルモン分泌の低下を伴う場合には、これに対応した治療も必要です。
 なお、低身長に対するGHの治療は、GH分泌不全症以外にターナー症候群、軟骨異栄養症、小児慢性腎臓病による低身長、プラダー・ウィリ症候群による低身長、SGA性低身長症、ヌーナン症候群でもみとめられています。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)
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