米・St Jude Children's Research HospitalのNicholas S. Phillips氏らは、小児がんサバイバーの成人期における認知機能障害リスクを検討する後ろ向きコホート研究Childhood Cancer Survivor Study(CCSS)を実施。小児がんサバイバーでは成人期における記憶障害のリスクが高いことが示唆されたとJAMA Netw Open2023; 6: e2316077)に報告した。

中枢神経系腫瘍、ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病のサバイバーを追跡

 小児がん患者では、診断から5~10年後に現れる認知機能障害を含む重度の晩期合併症リスクが高いことが知られている。しかし、治療後10年間に記憶障害などの領域特異的な認知機能障害を呈さなかったサバイバーが、成人期においても認知機能障害の新規発生リスクが高い状態にあるかどうかは不明である。

 そこでPhillips氏らは、小児がんサバイバーの成人期における認知機能障害リスクを検討する目的で、後ろ向きコホート研究CCSSを実施した。

 対象は、1970年1月1日〜86年12月31日に21歳未満で小児がんと診断され、北米の31施設で治療を受け診断後5年以上生存した18歳以上の小児がんサバイバー2,375例(平均年齢31.8±7.5歳、女性54.6%)と、サバイバーの同胞で18歳以上の232例(同34.2±8.4歳、57.8%)。いずれも縦断的な認知機能評価が可能な者とし、ベースライン時に認知機能障害やがん以外の認知機能障害リスクとなる遺伝性疾患(ダウン症候群ターナー症候群)がある者は除外した。小児がんの内訳は、中枢神経系(CNS)腫瘍群488例、ホジキンリンパ腫(HL)群571例、急性リンパ性白血病(ALL)化学療法単独群455例、ALL頭蓋内放射線療法(CRT)併用群861例だった。

 小児サバイバー4群と同胞群におけるベースライン(診断後23.4年)から追跡終了(診断後35.0年)までの認知機能障害の新規発生率を比較した。

 主要評価項目は、追跡期間中の認知機能障害の新規発生(同胞コホートの最下位10%のスコアと定義)とした。認知機能は、認知機能測定尺度(CCSS-NCQ)を用いて評価した。CCSS-NCQは作業効率、感情統制、組織化、記憶の4領域の評価により構成される。認知機能障害と治療、健康に関わる行動および状態との関連は、一般線形モデルを用いて相対リスク(RR)と95%CIを推算した。解析は2021年1月~2022年5月に実施した。

脳脊髄照射やメトトレキサート、アルキル化薬が記憶障害と関連

 解析の結果、CCSS-NCQの評価領域のうち、記憶障害の新規発生率は同胞群の7.8%(95%CI 4.3~11.4%)に対し、ALL化学療法単独群では14.0%(同10.7~17.4%)、ALL CRT併用群では25.8%(同22.6~29.0%)、CNS腫瘍群では34.7%(同30.0~39.5%)、HL群では16.6%(同13.4~19.8%)と、いずれもサバイバー群で高かった。

 治療と認知機能障害との関連を検討したところ、CNS腫瘍群では全脳脊髄照射(RR 1.97、95% CI 1.33〜2.90)と局所照射(同1.60、1.09〜2.33)、ALL化学療法単独群ではメトトレキサートの髄腔内、静脈内、筋肉内投与(同2.31、1.10〜4.83)と累積8,000mg/m2以上のアルキル化薬投与(同2.80、1.28~6.12)が新規発生記憶障害の危険因子として抽出された。

 CNS腫瘍群において記憶障害の新規発生リスクが最も高かったのは、側頭葉に対する50Gyを超える照射だった(RR 2.05、95%CI 1.47〜2.86)。

 ALL CRT併用群ではベースライン時の喫煙(RR 1.56、95%CI 1.11~2.18)、CNS腫瘍群ではベースライン時の低身体活動量(同1.43、1.09~1.89)が記憶障害の新規発生リスク上昇と関連していた。

 以上から、Phillips氏らは「小児がんサバイバーは生涯を通じて認知機能低下のリスクにさらされる可能性が示された。医師は、治療終了時に問題がなくても、全サバイバーに対し認知機能のフォローアップを行う必要がある」と述べている。

(今手麻衣)