中国・University of Hong KongのRaymond HW. Li氏らは、標準的な経口緊急避妊薬であるレボノルゲストレルに非ステロイド抗炎症薬(NSAID)である長時間作用型シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬ピロキシカムを上乗せした場合の避妊効果を検討するプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施。プラセボと比べピロキシカムの併用により妊娠阻止率が有意に上昇し、月経周期の乱れや有害事象の増加は見られず忍容性も高いことが示されたと、Lancet2023年8月16日オンライン版)に発表した。ピロキシカムの上乗せ効果をRCTで検討したのは今回が初めてだという。

安価で長時間作用型のピロキシカムを選択

 標準的な緊急避妊薬として広く用いられているレボノルゲストレルは、排卵の抑制・遅延により避妊効果を発揮すると考えられる。そのため、同薬の効果を最大限に得るには排卵前に服用する必要がある。

 近年、緊急避妊薬の有効性を向上させる手法として、COX阻害薬の併用が注目されている。排卵や受精、胚着床などの促進に働くホルモンの一種プロスタグランジンの産生に関与するCOXを阻害することで、排卵前だけでなく排卵後においても緊急避妊に対する相乗効果をもたらすと期待される。

 Li氏らは今回、COX阻害薬の中でも安価で長時間作用型のピロキシカムを選択し、緊急避妊におけるレボノルゲストレルへの上乗せ効果をプラセボ対照二重盲検RCTで検討した。

無防備な性交から72時間以内に投与を要した女性860例が対象

 対象は、家族計画や母子保健の普及啓発に関わる民間団体である香港家族計画協会に登録し、2018年8月~22年8月に無防備な性交から72時間以内にレボノルゲストレル投与を要した18歳以上の健康な女性860例(中国系97%)。二重盲検下でレボノルゲストレル1.5mgにピロキシカム40mgまたはプラセボを併用する群(各430例、いずれも単回経口投与)に1:1でランダムに割り付けた。平均年齢はピロキシカム併用群が31歳、プラセボ群が30歳だった。次の月経予定日の1~2週間後に追跡調査を行い、妊娠検査薬を用いて妊娠の有無を確認した。

 主要評価項目は、排卵日付近での性交など、妊娠しやすい時期の服用により妊娠を防げる確率を意味する妊娠阻止率とし、(妊娠予想数-妊娠判明数)/妊娠予想数で算出した。副次評価項目は、緊急避妊後の妊娠率、月経の開始時期や出血パターンの変化、月経以外の出血、有害事象の出現とした。解析には、ロジスティック回帰におけるFirthの罰則付き最尤法を用いた。

妊娠阻止率は併用群で94.7%と有意に高い結果に

 検討の結果、性交から緊急避妊薬投与までの時間は平均18時間だった。緊急避妊措置を要した理由として、コンドーム装着失敗が最も多く(ピロキシカム併用群67%、プラセボ群68%)、避妊具未使用(同31%、29%)が続いた。

 各群418例(計836例)を対象に有効性を解析したところ、緊急避妊薬服用後に妊娠が判明したのはプラセボ群の7例(1.7%)に対し、ピロキシカム併用群では1例(0.2%)と有意に少なかった(回帰係数-1.6、オッズ比0.20、95%CI 0.02~0.91、P=0.036)。妊娠阻止率はプラセボ群の63.4%に対し、ピロキシカム併用群では94.7%と有意に高かった(P<0.0001)。

安全性に問題見られず

 緊急避妊薬の服用から次の月経開始時期や出血パターンに両群で差はなかった。次の月経開始が予定よりも7日以上早まったり遅れたりした女性は、ピロキシカム併用群では25%、プラセボ群では23%。緊急避妊薬服用から6日以内に月経による出血以外の出血や点状出血を報告したのは両群とも39%だった。

 有害事象のプロファイルについても両群で差はなかった。頻度が高かったのは、倦怠感または脱力感(ピロキシカム併用群10%、プラセボ群12%)、吐き気(同6%、6%)、下腹部痛(同7%、7%)、頭痛(同5%、6%)だった。服薬後3日以内に胃痛を報告した女性は両群とも3%にとどまった。

 Li氏らは「ピロキシカムが上乗せ効果を発揮したメカニズムは明らかでなく、受精や卵管機能、着床などの生殖過程に及ぼす影響については今後さらなる研究が必要だ」とした上で、「レボノルゲストレルへのピロキシカムの上乗せにより、緊急避妊効果が向上することが明らかになった。緊急避妊にレボノルゲストレルを用いる際には、ピロキシカムの併用を検討する余地がある」と結論している。

(小谷明美)