労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター(RECORDS)研究員の守田祐作氏(現・日本製鉄東日本製鉄所鹿島地区専属産業医)らは、同センターが構築した労災申請に関するデータベース(過労死等データベース)を用い、日本人労働者における過重労働と脳内出血(ICH)発症リスクとの関連を検討。その結果、過重労働に関連するICHとして労災補償を申請し業務上認定(労災認定)となった過重労働者では、業務外認定(労災非認定)となった過重労働者でない者と比べて脳深部(被殻、視床、大脳基底核)高血圧性ICHの発症リスクが高かったとBMJ Open2023; 13: e074465)に発表した。

労災認定者で脳深部・高血圧性ICHリスク

 RECORDSでは、2010~17年に過重労働に関連する脳・心血管疾患として労災申請された全例の情報を収集して過労死等データベースを構築し、データを解析している。

 今回の研究では、日本において最もよく見られる過重労働関連の脳・心血管疾患であるICHに対象を絞り、過重労働関連ICHに対する労災補償を申請し労災認定とされた過重労働群621例と労災と認定されなかった対照群594例の計1,215例を解析に組み入れた。

 年齢、性、職業、喫煙状況、飲酒量、高血圧糖尿病、脂質異常症の既往歴を調整後の解析で、対照群との比較において過重労働群では、高血圧性ICH発症リスクとの有意な関連が示された〔調整後オッズ比(aOR)1.44、95%CI 1.10~1.88〕。

 高血圧性ICHの発症リスクは、30歳未満(40~49歳に対するaOR 0.09、95%CI 0.02~0.42)および30~39歳(同0.63、0.41~0.99)の若年者、現喫煙者(非喫煙者に対するaOR 0.55、95%CI 0.42~0.73)、脂質異常症の既往者(非既往者に対するaOR 0.60、95%CI 0.40~0.91)で低く、高血圧の既往者(同1.36、1.03~1.79)で高かった。飲酒量、職業による有意差は認められなかった。

100時間/月以上の時間外労働でオッズ比1.50

 また、長時間外労働と高血圧性ICH発症リスクとの間には用量反応性の関係が認められた。発症前6カ月間の1カ月当たりの平均時間外労働時間が60時間未満の者に対する高血圧性ICH発症のaORは、60~79.9時間の者で1.31(95%CI 0.89~1.91)、80~99.9時間の者で1.41(同0.95~2.11)、100時間以上の者で1.50(同1.01~2.22)だった。

 以上の結果について、守田氏らは「自己申告の労働時間に基づく研究とは異なり、労働基準監督署による労働時間や診断内容の客観的な評価に基づくデータを用いた点が今回の研究の強み」と指摘した上で、「過重労働となっている日本人労働者はそうでない者と比べて高血圧性ICHの発症リスクが高く、高血圧が過重労働関連ICHの発症に重要な役割を果たしていることが示唆された」と結論している。

 さらに、「過重労働は定期健康診断では検出されない短期的な血圧上昇や仮面高血圧の発症につながる恐れがあり、高血圧が検出されても、過重労働者には治療を受ける時間がない可能性がある」と説明。「今後の研究で、過重労働と高血圧性ICHを関連付けるメカニズムを解明する必要がある」と付言している。

(太田敦子)