英・St James's University HospitalのAlexander C. Ford氏らは、成人の過敏性腸症候群(IBS)患者を対象に、二次治療におけるアミトリプチリンの低用量漸増投与(1日1回10~30mg)の有効性に関する第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験ATLANTIS(Amitriptyline at Low-Dose and Titrated for Irritable Bowel Syndrome as Second-Line Treatment)を実施。アミトリプチリン群では、総合的症状の尺度であるIBS-severity scoring system(IBS-SSS)スコアが、プラセボ群と比べて6カ月後に有意に低下し、安全で忍容性も良好だったとLancet2023年10月16日オンライン版) に報告した。これまでに実施されたIBSに対する三環系抗うつ薬の試験としては最大規模のもので、完全なプライマリケア環境での初の試験となる。

英国の診療所55施設で実施

 IBSは便形状や排便頻度の変化に伴う腹痛を特徴とする機能性腸疾患で、全世界での有病率は5~10%と推計されている。

 IBS患者のほとんどはプライマリケアで管理される。食事療法、下剤、鎮痙薬や痢止薬などの一次治療で症状が改善しない場合、英国のプライマリケアにおけるIBS管理のための英国立医療技術評価機構(NICE)のガイダンスでは、二次治療として低用量の三環系抗うつ薬を考慮することを推奨している。同薬はランダム化比較試験(RCT)のメタ解析で有効性が示されており、疼痛制御や消化管運動への作用による利点が示唆されていたが、RCTのほとんどは小規模で、完全にプライマリケアで実施されたものはなかった。

 ATLANTIS試験では、英国の診療所55施設で管理されているIBS患者を対象に、6カ月間のアミトリプチリンの低用量漸増投与がプライマリケアにおけるIBSに対する二次治療として有効かどうかを検討した。

用量漸増ガイドを書面で提供

 対象は、18歳以上でRomeⅣによる診断基準を満たしIBSと診断され、食事療法や一次治療で効果がなく活動性の症状を有し(IBS-SSSスコア75点以上)、全血球数とC反応性蛋白が正常、セリアック病の抗体検査が陰性および自殺念慮の兆候がない患者とした。

 2019年10月~22年4月に登録された463例(平均年齢48.5歳、女性が68%)を、症状と忍容性に応じて低用量経口アミトリプチリン群232例(1日1回10mg)またはプラセボ群231例に1:1でランダムに割り付けた。用量漸増法を書面で提供し、用量10mgで夜間に開始し、3週間かけて症状反応性や副作用に応じて夜間に漸増(1日1回最大30mgまで)するよう指導した。

 主要評価項目は、6カ月後のIBS-SSSスコアで測定したIBSの総合的症状に対する効果とした。治療忍容性は、確立されたAntidepressant Side-Effect Checklist(ASEC)を使用して既知の副作用を有害事象として監視し、3、6、12カ月時に評価した。

中等症以上が85%、罹病期間10年

 ベースライン時の患者背景は、80%以上(463例中372例)が下痢型(IBS-D)または混合型(IBS-M)に分類され、84%がhospital anxiety and depression scale (HADS)-抑うつ尺度が正常、85%が中等度~重症のIBS-SSSスコアを示した。全体のIBS-SSSスコアの平均値(SD)は272.8 (90.3)、IBS罹病期間の中央値は10年だった。

 アミトリプチリン群173例(75%)とプラセボ群165例(71%)が6カ月の治療を完了した。アミトリプチリン群では6カ月後までに43%が用量30mg/日に増量していた。

アミトリプチリン群でIBS-SSSスコアが100余り低下

 主要評価項目は、ベースラインのIBS-SSSスコアを調整した線形回帰モデルを用いて6カ月後のスコア群間差を検定した。Intention-to-Treat(ITT)解析の結果、6カ月時点でアミトリプチリン群はプラセボ群よりも症状軽減効果に優れており、IBS-SSSスコアの平均値(アミトリプチリン群170.4、プラセボ群200.1)には両群間で有意差があった(-27.0、95%CI -46.9~-7.1、P=0.079)。ベースラインからのIBS-SSSスコアの平均変化量は、プラセボ群の-68.9に対し、アミトリプチリン群では-99.2だった。

 主な副次評価項目である6カ月後の主観的包括的評価(subjective global assessment;SGA)によるIBS症状の軽減は、プラセボ群に対するアミトリプチリン群のオッズ比(OR)が1.78(95%CI 1.9~2.66、P=0.0050)だった。一方、アミトリプチリンは6カ月後のPHQ-12スコア、HADSの不安および抑うつスコア、WSASスコアには影響を及ぼさなかった。

主な副作用は口渇や眠気など

 アミトリプチリン群では、プラセボ群に比べて3カ月後に総ASECスコアが有意に上昇した(平均差1.39、95%CI 0.29~2.50、P=0.013)が、6カ月後には有意差はなかった(同0.26、-0.98~1.51、P=0.68)。アミトリプチリンによる有害事象は、主に既知の抗コリン作用に関連しており、6カ月時点で口渇が54%、眠気が53%、排尿障害が22%、目のかすみが17%に見られた。しかし、便秘下痢(10%未満)を除いて重篤なものはほとんどなかった(5%未満)。

 6カ月後までの有害事象による服用中止は、プラセボ群の20例(9%)に比べて、アミトリプチリン群では30例(13%)とやや頻度が高かった。重篤な副作用は5例(アミトリプチリン群2例、プラセボ群3例)発生し、治験薬とは無関係の重篤な有害事象が5例あった。

用量漸増などの患者サポートが重要

 以上の結果から、Ford氏らは「プライマリケアにおけるIBSの二次治療として、低用量アミトリプチリンを漸増投与したATLANTIS試験の結果は、プライマリケアでのアミトリプチリンの使用を強く支持している」と結論。その上で患者へのサポートの重要性を強調しており、「一般開業医は、一次治療で症状が改善しないIBS患者にアミトリプチリンを提示するとともに、われわれが開発した自己用量漸増法などの患者主体の用量調整をガイドするための適切なサポートを提供する必要がある」と付言している。

(坂田真子)