くも膜下出血(SAH)発症後の2~3週間以内に生じる遅発性脳血管攣縮(DCI)による脳梗塞は、転帰不良をもたらす重篤な合併症の1つである。『脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023)』(以下、GL)では、DCIによる脳梗塞に対しさまざまな治療法や薬剤を推奨しているものの、標準的な治療・予防プロトコルは確立されていない。名古屋市立大学脳神経外科学講座の西川祐介氏、教授の間瀬光人氏らはSAH後のDCIによる脳梗塞について発症率、予防的治療法、使用薬などの実態を把握するため全国調査を実施。シロスタゾールの単独または併用投与の有効性が示されたと、Front Neurol2023; 14: 1296995)に報告した。

日本脳卒中の外科学会指導医・認定医の所属施設が対象

 SAH後のDCIの治療薬については、2022年に選択的エンドセリン受容体拮抗薬クラゾセンタンが承認され、GLでは同薬に加えRhoキナーゼ阻害薬ファスジル、TXA2合成酵素阻害薬オザグレルを推奨している。また抗血小板薬シロスタゾールや脳保護薬エダラボン、スタチン、カルシウム拮抗薬、ステロイドの有効性が示唆されるなど、複数の選択肢が用いられている。しかし、各施設における薬剤の使用状況やDCIによる脳梗塞発症率の実態は明らかでない。そこで西川氏らは、SAH/スパズム・シンポジウムと日本脳卒中の外科学会の協力の下、全国調査を実施した。

 対象は、日本脳卒中の外科学会技術指導医または技術認定医が所属する553施設。2021年1月1日~12月31日にSAHを発症し、72時間以内に破裂脳動脈瘤に対する急性期治療を受けた症例について、急性期治療法、予防的治療法、使用薬などを尋ねた。個人情報保護のため、患者の年齢、性、SAHの重症度や詳細な治療内容、施設名は質問項目から除外し、DCI予防薬については9種類〔ファスジル、オザグレル、シロスタゾール、エダラボン、スタチン、ステロイド、ニカルジピン、クラゾセンタン、イコサペント酸(EPA) 製剤〕から選択してもらった(複数回答可)。

 SAHの治療回数と治療法を調整したロジスティック回帰分析により、DCIによる脳梗塞発症のオッズ比(OR)を算出した。

開頭クリッピング術に比べ血管内治療で発症率低い

 162施設(29%)から回答を得た。回答に不備があった4施設を除いた158施設のSAH患者3,093例を解析対象とした。

 3,093例中281例(9.1%)がDCIによる脳梗塞を発症し、発症率は平均10.1%(中央値6.6%)だった。

 SAHの治療法別にDCIによる脳梗塞の発症率を見ると、開頭クリッピング術群(1,401例)に比べて血管内治療群(1,692例)で有意に低かった(11.7% vs. 6.8%、OR 0.90、95%CI 0.84~0.96、P<0.007)。SAHの治療回数、地域、ドレーン留置の有無などとの関連は認められなかった。

最適な予防薬の組み合わせを考える有益な知見

 SAH後DCI予防薬の使用率は、ファスジルが100%と最多で、次いでシロスタゾール(57%)、オザグレル(55%)、スタチン(33%)の順だった。

 解析の結果、予防薬9剤のうちシロスタゾールのみがDCIによる脳梗塞発症率の低下と関連しており、ORはシロスタゾール単独で0.48(95%CI 0.27~0.82、P=0.026)、ファスジル+スタチンとの併用で0.38(同0.22~0.67、P=0.005)、ファスジル+エダラボンとの併用で0.40(同0.22~0.71、P=0.008)だった。SAHの治療法、治療回数、地域などを調整した解析でもシロスタゾールによるリスク低減が一貫して認められた。

 以上を踏まえ、西川氏らは「全国実態調査から、SAH後のDCIによる脳梗塞予防に対するシロスタゾールの有効性が示された。また、破裂動脈瘤に対する開頭クリッピング術群と比べて、血管内治療群で発症率が低かった」と結論。「今回の知見は、最適な予防薬の組み合わせを考える上で有益な情報を提供するものだ」と付言している。

服部美咲