中国・Public Health Research Institute of Jiangsu ProvinceのFengcai Zhu氏らは、中国で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)経鼻ワクチンdNS1-RBDの第Ⅲ相試験結果をLancet Respir Med2023年11月15日オンライン版)に発表した。SARS-CoV-2経鼻ワクチンの有効性に関するデータの報告は今回が初めてとなる。dNS1-RBDは事前に規定された有効性の基準を満たさなかったものの、忍容性は良好で持続的な感染予防効果を示した。

2回投与時の安全性と有効性を検討

 dNS1-RBDは、NS1欠失寒冷適応インフルエンザウイルスベクターにSARS-CoV-2従来株のスパイク蛋白質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードする遺伝子を挿入したSARS-CoV-2経鼻ワクチンで、オミクロン株への感染予防効果が高いとみられている。中国・Beijing Wantai Biological Pharmacy Enterprise社が開発を進め、中国では2022年12月に緊急使用許可を取得した。

 Zhu氏らは4カ国(コロンビア、フィリピン、南アフリカ、ベトナム)33施設による第Ⅲ相多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験でdNS1-RBDの2回接種時の安全性と有効性を検討。スクリーニング時点でSARS-CoV-2感染歴がなく、SARS-CoV-2ワクチン未接種または接種から6カ月以上経過した18歳以上の3万1,038例をdNS1-RBDスプレー経鼻投与群(ワクチン接種群:1万5,517例)とプラセボ群(1万5,521例)に1:1でランダムに割り付けた。いずれも14日間隔で2回(1回当たり0.2mL、鼻腔当たり0.1mL)投与した。

有効性は30%以上を成功基準に

 安全性の解析対象は、試験薬を1回以上投与した者(ワクチン接種群1万5,496例、プラセボ群1万5,494例)とした。主要評価項目は、接種後7日以内または30日以内に発生した有害事象および副反応と、初回接種から2回目接種後12カ月時点までの重篤な有害事象とした。

 有効性の解析対象は、プロトコル遵守集団(PPS、ワクチン接種群1万2,840例、プラセボ群1万2,902例)とした。主要評価項目は、2回目接種後15日目以降に逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査で確認された症候性SARS-CoV-2感染とし、副次評価項目はSARS-CoV-2ワクチン接種歴の有無、年齢(18~59歳/60歳以上)、基礎疾患の有無で層別化した症候性SARS-CoV-2感染、重症または重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患および死亡とした。ワクチンの有効性は層別化Cox比例ハザードモデルを用いて(1-ハザード比)×100で算出し、30%以上を成功基準とした。

良好な安全性プロファイルを確認

 安全性の解析では、年齢層、ワクチン接種歴および基礎疾患の有無に関係なく、良好な安全性プロファイルが認められた。また接種後30日以内の有害事象と副反応の発現率に両群で差は見られなかった(有害事象発現率:両群とも15.6%、副反応発現率:両群とも12.4%、重篤な有害事象発現率:両群とも1.0%)。

 局所的な副反応としては鼻漏(ワクチン接種群3.7% vs. プラセボ群3.5%)、鼻閉(2.3% vs. 1.9%)、喉の痛み(2.1% vs. 2.2%)、全身症状としては頭痛(5.3% vs. 5.1%)、咳嗽(3.1% vs. 3.4%)、発熱(3.0% vs. 3.1%)、倦怠感(3.0% vs. 3.1%)が多かった。dNS1-RBD接種に関連する重篤な有害事象や死亡例は認められなかった。高齢者(60歳以上)、基礎疾患のある者など事前に規定したサブグループ解析でも、有害事象および副反応の発現率に両群で差は見られなかった。

有効性では持続的な感染予防効果を示す

 有効性については、ベースラインのワクチン接種歴に関係なく、2回目接種から15日目以降の症候性SARS-CoV-2感染率はワクチン接種群で1.6%、プラセボ群で2.3%、dNS1-RBD 2回接種の有効性は28.2%(95%CI 3.4~46.6%、追跡期間中央値161日)と成功基準を下回った。一方、2回目接種後15~90日の短期的な有効性は32.6%(同8.2~50.5%)だった。SARS-CoV-2ワクチン接種の有無別に見ると、未接種例の短期的な有効性(55.2%、95%CI 13.8~76.7%)は認められたが、長期的な有効性および接種例での有効性は示されなかった。この点についてZhu氏らは、接種例と未接種例における免疫状態の根本的な差に起因するものと考察している。

 以上から、同氏らは「今回の第Ⅲ相試験において、dNS1-RBDの2回接種は有効性の成功基準を満たさなかった。しかし同ワクチンの忍容性は高く、有効性の急激な減退を来すことなく持続的な感染防御効果を発揮すると考えられる」と結論。

 その上で、「経鼻ワクチンは接種が簡便で、一般的に受け入れられやすい。本検討で高齢者や基礎疾患のある人でも高い安全性が示されたことを踏まえ、dNS1-RBDはワクチン接種に対するハードルを下げて接種率を向上させ、脆弱な集団における疾病負担の軽減につながる可能性がある」と展望している。

(小谷明美)