スウェーデン・Karolinska InstitutetのLe Zhang氏らは、注意欠陥・多動性障害 (ADHD)患者の大規模レジストリに基づくネステッド症例対照研究の結果をJAMA Psychiatry(2023年11月22日オンライン版)に報告。「ADHD治療薬への長期曝露は心血管疾患(CVD)リスクの上昇、特に高血圧および動脈疾患リスクの上昇との関連が認められた」と述べている。

CVDリスクとの関連に一貫した報告なし

 ADHD治療薬の使用は小児、成人を問わず増えている(Lancet Psychiatry 2018; 5: 824-835)。有効性については複数のランダム化比較試験(RTC)で証明されているが、安全性、特に心血管系への影響については依然として懸念が残る。ADHD治療薬と重篤なCVDアウトカムとの関連を検討した観察研究の結果は一貫しておらず(N Engl J Med 2011; 365: 1896-904BMJ 2016; 353: i2550)、今年(2023年)の欧州心臓病学会では、ADHDの長期治療に伴い脳卒中心不全が増えるとの報告もあった(関連記事「ADHD長期治療で脳卒中、心不全が増」)。

 Zhang氏らは今回、スウェーデンの入院患者レジストリと処方薬レジストリから、2007年1月~20年12月31日にADHDの診断を受けた、あるいはADHD治療薬を処方された患者(6~64歳)を同定。診断/処方のどちらか早い日をベースラインとし、その後、CVD(虚血性心疾患、脳血管疾患、高血圧心不全不整脈血栓塞栓症、動脈疾患など)と診断された患者を症例とした(CVD診断日をindex dateとした)。

 incidence density samplingの手法を用いて、年齢、性、暦時間(calendar time)をマッチングさせ、index dateにCVDと診断されていない患者を対照として、症例1例に対し最大5例までランダムに抽出した。症例と対照のベースラインからindex dateまでの追跡期間は同じ長さにした。追跡期間は最長14年だった。

高血圧と動脈疾患に長期使用との明らかな関連

 症例群(CVD診断あり)1万388例、対照群(CVD診断なし)5万1,672例が同定された。年齢中央値は症例群34.6歳(四分位範囲20.0~45.7歳)、対照群34.6歳(同19.8~45.6歳)、追跡期間中央値と男性割合は両群とも4.1年(同1.9~6.8年)、59.2%だった。対照群のうち3,363例は、index dateの後にCVDの診断を受けた。

 追跡期間中のADHD治療薬使用率は症例群83.9%、対照群83.5%と同等で、処方が多かったのは、メチルフェニデート、アトモキセチン、リスデキサンフェタミンだった。

 解析の結果、ADHD治療薬の累積使用期間が長くなるほどCVDリスクの上昇が認められた〔累積使用期間0に対する調整後オッズ比(AOR)は、1年以下:0.99(95%CI 0.93~1.06)、1年超~2年以下:1.09(同1.01~1.18)、2年超~3年以下:1.15(同1.05~1.25)、3年超~5年以下:1.27(同1.17~1.39)、5年超:1.23(同1.12~1.36)〕。

 CVDの種類別では、高血圧〔ADHD治療薬の累積使用3年超~5年以下:AOR 1.72(95%CI 1.51~1.97)、5年超:1.80(同1.55~2.08)〕および動脈疾患〔同3年超~5年以下: 1.65(同1.11~2.45)、同5年超:1.49(同0.96~2.32)〕でADHD治療薬の累積使用期間との関連が認められたが、不整脈心不全虚血性心疾患血栓塞栓症、脳血管疾患に関しては統計学的に明らかな関連は見られなかった。

 最長14年の追跡期間中、ADHD治療薬の使用は1年ごとにCVDリスクの上昇と関連し(AOR 1.04、95%CI 1.03~1.05)、最初の3年間の使用がより強く関連する(同 1.08、1.04~1.11)ことも判明した。

 25歳未満と25歳以上で層別した解析では、全体の分析と同じパターンが観察された。

リスクベネフィットを考慮した慎重な使用が重要

 以上の結果を踏まえZhang氏らは「ADHD治療薬への長期曝露はCVDリスクの上昇と関連することが確認された。特に高血圧と動脈疾患との関連が強かった。ADHD治療薬の長期使用に関しては、リスクとベネフィットを慎重に検討し、CVDの徴候や症状を常にモニタリングすべきであろう」と述べている。

木本 治