子宮頸がんは主にヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染により発症し、日本では年間1万例以上の報告がある。HPVの感染率は男女ともに高く、性交渉で感染するため予防には性行為開始前年齢でのワクチン接種が有効である。しかし、日本では2013年4月にHPVワクチンが定期接種化された直後に副反応の報告により積極的勧奨が中止された。昨年(2022年)4月に再開されたものの、センセーショナルな報道をきっかけに広まった誤情報に基づくワクチンへの不信感が再開後も根強く、接種率低迷が課題となっている。大阪公立大学看護学研究科講師の髙知恵氏らは、積極的勧奨中止期間に対象年齢を迎えた女性を対象とする意識調査を実施。親の勧めがワクチン接種を強く促す一方で副反応への不安が負の関連を示したとの結果をJMA Journal2023年11月16日オンライン版)に報告した。

全国の女子大学生が対象

 既報から、HPVワクチン接種者は自らの意思決定に対する満足度が高いことが示されている。髙氏らは今回、日本人女性におけるHPVワクチン接種行動に関連する因子が、意思決定に対する満足度に及ぼす影響を明らかにするため意識調査を行った。

 調査対象はHPVワクチンの積極的勧奨が中止されていた2013年6月~22年3月に接種対象年齢(小学6年~高校1年生)を迎えていた全国の看護大学および非看護系大学に在籍する女性1,988人(看護系1,089人、非看護系899人)。医学部、薬学部、その他看護系以外の医療系学部の学生は除外した。2021年4~7月に無記名自記式質問票を郵送。301人が参加に同意し、データ欠損者を除外した252人(平均年齢21.3歳、看護系46.2%)の回答を解析した。

 ワクチン接種の意思決定因子を同定するため、年齢、学部(看護系/非看護系)、知識スコア(20項目:0~20点)、ワクチン接種の有無、接種回数(0~3回)、ワクチン接種に対する態度尺度(下位尺度:家族の健康意識、ワクチン接種関連の話題への接触、ワクチン接種への適応力、子宮頸がんへの恐怖、ワクチン接種への肯定的感情および高い関心、ワクチン接種への否定的感情および苦手意識、ワクチンへの不安、時間・費用面の負担感)、影響が予想される因子(親の勧め、医療者の勧め、教員の勧め、性教育、友人の接種、ワクチン接種費用、副反応問題、無料クーポン)、性行為関連因子(性交経験、妊娠リスク認知、性感染症リスク認知)-について尋ねた。

親の勧めが接種に強く影響、副反応への不安は負の影響

 ロジスティック回帰分析を用いた多変量解析の結果、ワクチン接種群における意思決定因子としては、年齢上昇1歳ごと〔オッズ比(OR)2.36、95%CI 1.12~5.00〕、 ワクチン関連の話題に対する態度(同3.45 、1.11~10.72)、 親の勧め(同31.86 、9.81~103.47)、 無料クーポン(同4.96 、1.11~22.16)に強い正の関連が見られ、副反応への不安は負の関連を示した(同0.06 、0.01~0.24)。

 またワクチン接種群と非接種群で、性交渉に関する認知度に有意差はなかった。

 次に意思決定に対する満足度(満足102人、不満足24人、どちらともいえない126人)に関連する因子を検討したところ、満足群では看護系学生の割合が多く、年齢、知識スコアが高く、性交渉リスクの認知度は低かった(全てP<0.001)。

 以上の結果を踏まえ、髙氏らは「日本の女子大学生におけるHPVワクチン接種行動に関する意思決定には親の勧めが正に、副反応への不安が負に強い影響を及ぼしていることが示唆された。当事者および保護者への正しい情報発信が求められる。またワクチン接種行動と性交の機会の増加、性交開始年齢の低下、パートナー人数の増加との関連は示されなかった。ワクチン接種が若年者の性行動に負の影響を及ぼすとの懸念には根拠がない可能性が高い」と結論している。

服部美咲