代謝機能不全関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction associated steatotic liver disease;MASLD)は世界人口の最大25~30%に発生していると言われているが、進行性慢性肝疾患 (ACLD)や幹細胞がん(HCC) に進行するケースはまれで、MASLD から ACLDやHCC に至る正確なメカニズムは依然として不明である。イタリア・University of BolognaのFrancesco Tovoli氏らは、職場での汚染物質曝露が重度のMASLDに及ぼす影響を評価するため、ACLDやHCC患者とそれ以外のMASLD患者を比較するパイロット試験を実施。「ACLDやHCC症例は、対照群に比べ金属やハロゲン系冷媒、燃料排出物などの汚染物質への曝露が有意に高く、汚染物質への曝露期間が21年以上の場合は発症が有意に高いことが示された」とDig Liver Dis2023年12月26日オンライン版)に報告した。 

汚染物質への曝露に関するアンケートを実施、各種データと統合

 MASLDの原因として、インスリン抵抗性や肥満が知られている。しかし最近、汚染物質への曝露が肝細胞の異常な脂肪蓄積や酸化ストレスを引き起こし、MASLDの一因となる可能性が報告された(Biol Chem 2018; 399: 1237-1248)。高頻度で塩化ビニルに曝露した労働者の肝生検結果は、肥満アルコール依存症患者と類似していたことから、毒物関連脂肪性肝炎(TASH)という概念も提唱されている(Hepatology 2010 ; 51: 474-81)。

 そこでTovoli氏らは、MASLD患者において自己申告による職場での汚染物質曝露の発生率を評価し、ACLDやHCCに与える影響を検討した。2018年3月~21年2月にMASLD患者が登録され、MASLD関連のACLDおよび/またはHCCを持つA群55例(合併37例、HCCのみ12例、ACLDのみ6例)と、これらのないB群146例に分けられた。肝毒性のある汚染物質への曝露に関するアンケートを実施し、そのデータは臨床検査データや画像データと統合された。アンケートによる職場での汚染物質曝露についての妥当性は、登録患者の臨床データについて知らされていない2人の疫学者が判断した。

 両群の背景を見ると、A群はB群に比べ年齢と男性の割合が有意に高かった。全体では112例(55.7%)が1つ以上の汚染物質曝露を経験しており、多く報告された物質は溶媒48例(23.9%)、金属45例(22.4%)、着色料・顔料・塗料・樹脂35例(17.4%)だった。

殺虫剤が使用されている農場への近さもリスク

 ロジスティック回帰分析で職場での汚染物質曝露とACLDおよび/またはHCCとの関連を評価したところ、A群はB群に比べ、男性〔オッズ比(OR)4.08、95%CI 1.68~9.87、P=0.002〕や70歳以上(同5.94、1.42~24.81、P<0.015)といった既知の危険因子に加え、職場での汚染物質への31年以上の曝露(同4.26、1.73~10.51、P=0.002)、殺虫剤が使用された可能性がある農場への近さ(同3.65、1.31~10.18、P=0.014)が有意に高かった。

 年齢と性を調整したモデル1および喫煙、低用量のアルコール摂取、糖尿病高血圧症肥満について調整したモデル2において、逆確率重み付け(IPW)法で傾向スコア分析を行ったところ、B群に比べてA群で、21年以上の職場における汚染物質への曝露と殺虫剤が使用された可能性がある農場への近さは危険因子になっていた。特にモデル2において、21~30年(OR 2.31、95%CI 1.09~4.88、P=0.029)および31年以上(同4.47、 2.57~7.78、P<0.001)の職場での汚染物質への曝露、殺虫剤が使用された可能性がある農場への近さ(同2.26、1.10~4.63、P=0.027)、殺虫剤が使用された可能性が高い農場への近さ(同 4.66、2.36~9.19、P<0.001)は、A群において高いリスクとなっていることが示された。

リスクの啓発、保護具の使用や健康診断などの予防策実施が重要

 以上の結果からTovoli氏らは「ACLDやHCCなど最も重度の高いMASLD患者は、年齢や性、その他の潜在的な交絡因子に関係なく、20年以上の長きにわたり職場で汚染物質に曝露してきた可能性が高かった。今回の研究は今後の多施設研究を支持するものだった」と結論。

 また、汚染物質に曝露している集団において肝硬変やがんなどの重篤な合併症を予防できる可能性があるとし「リスクに対する意識を高め、保護具の採用や曝露集団への定期的な健康診断などの予防策を実施することで、重度肝疾患のリスクを低減できる」と付言している。

(平吉里奈)