肥満脳卒中の危険因子であることは論をまたないが、脳卒中患者では肥満の方が予後がよいという「肥満パラドックス」が複数の研究から示唆されている。しかし、脳卒中後の転帰を鋭敏に反映する肥満関連指標は確立されておらず、腹部脂肪が脳卒中患者の転帰に及ぼす影響も明らかでない。製鉄記念八幡病院(北九州市)脳神経内科医長の脇坂佳世氏らは、腹部脂肪の指標となるウエスト周囲長(WC)と急性虚血性脳卒中脳梗塞)後の短期機能転帰および死亡との関連を検討、WCの長さは良好な機能転帰と独立した関連が見られたことをPLoS One2024; 19: e0296833)に報告した。

福岡脳卒中データベース研究の1万5,000例が対象

 脇坂氏らは、福岡県の脳卒中基幹病院7施設による福岡脳卒中データベース研究に登録された急性脳梗塞患者を、男女別に入院時に測定したウエスト周囲長で四分位(Q1:女性74.3cm以下、男性78.9cm以下、Q2:同74.5〜81.8cm、79.0〜84.9cm、Q3:同82.0〜88.8cm、85.0〜90.9cm、Q4:同89.0cm以上、91.0cm以上)に分け、発症3カ月後の機能転帰不良〔modified Rankin Scale(mRS)スコア2以上〕および死亡との関連を評価。ロジスティック回帰分析により短期機能転帰不良および死亡のオッズ比(OR)を算出した。また、インスリン分泌能(HOMA-β 30以下/超)、インスリン感受性(HOMA-IR 2.5未満/以上)、年齢(65歳未満/以上)、性、糖尿病の有無、BMI(23未満/以上)で層別化したサブグループ解析も行った。

WCと短期機能転帰に非線形の関連

 解析対象は、2007年6月〜19年9月に登録された急性脳梗塞患者1万5,569例のうち、入院前からmRS 2の例やデータ欠損者、3カ月の追跡不能例を除外した1万1,989例(平均年齢70.3±12.2歳、女性36.1%)。高血圧糖尿病、脂質異常症、発症前の障害なし(mRSスコア0)の割合は、WCが大きい群で多かったが、心房細動はWCが大きい群で少なかった(全てP<0.001)。神経症状および再灌流療法の頻度はWCが大きい群で少なかった(順にP<0.001、P=0.005)。BMI、空腹時インスリン値、HOMA-β、HOMA-IRはWCが大きい群で高値だった(全てP<0.001)。

 解析の結果、機能転帰不良の割合はWCが大きいほど減少し、BMIを除く交絡因子を調整後の機能転帰不良のORは、Q2〜4で低かった。BMIを調整後も、機能転帰不良のORはQ2~Q4で有意に低かったが、機能転帰不良リスクとWCの大きさの関連における直線傾向は消失(傾向性のP=0.62)、非線形の関連が示された()。死亡との関連はBMIを除く交絡因子調整後は有意な関連が見られたが、BMIを調整後は有意な差が消失した(傾向性のP=0.28)。

表. ウエスト周囲長と機能転帰不良の関連

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PLoS One 2024; 19: e0296833)

 さらに、インスリン作用に関する種々の指標(空腹時IRI、HOMA-β、HOMA-IR)を調整後も、WCと機能転帰不良および死亡との関連は変わらなかった。

糖尿病患者でのみ良好な機能転帰と関連

 サブグループ解析の結果、65歳以上、男性、糖尿病のない患者でWCと臨床転帰に有意な関連が見られた。これらの因子のうち糖尿病の有無に有意な異質性が認められたことから、高WCは糖尿病のない患者でのみ良好な機能転帰と関連している可能性が示唆された。

 以上から、脇坂氏らは「急性脳梗塞患者において、WCと短期機能転帰との独立した非線形の関連が示唆された一方で、死亡との関連はなかった。両者の関連は体重やインスリン作用と無関係であり、糖尿病のない患者でのみ認められた。今回の知見は、急性脳梗塞後の機能転帰における脂肪の潜在的役割を検討する上で、腹部脂肪が重要な因子である可能性を示すものである」と結論。「腹部脂肪は重症患者において貯蔵エネルギーとして作用し、異化作用に傾いた代謝状態の改善に必要な可能性や、脂肪細胞から分泌される種々のサイトカインが脳梗塞後の炎症に作用し、機能回復に関与する可能性などが報告されており、これらにより説明できるかもしれない」と考察している。

編集部