国立国会図書館が進める蔵書のデジタル化の一端を、就労支援施設で働く障害者が担っている。スキャンやデータ管理など専門性のある業務を全国8施設が受託し、計3万冊余りを手掛ける。公共性の高い仕事に「やりがいは大きい」と胸を張る。
 東京都東村山市の就労支援施設「コロニー東村山」では昨年12月中旬、暗室に置かれたスキャナー機器の前で、身体や精神に障害のある10人ほどが黙々と作業に取り組んでいた。「余白は10ミリ以内」といった決まりの下、見開きの撮影を繰り返し、1時間で1、2冊をこなす。
 下半身にまひがあり、車いすで生活する宮川健人さん(40)は「紙面にほこりがないか、本が傾いていないか、注意する点は多い」と話す。スキャン画像の検査や目次データの作成など、障害者ら延べ約50人が作業に当たっている。
 国会図書館は個人のパソコンなどで蔵書を閲覧できるよう、2000年から徐々にデジタル化を進めてきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による利用制限を機に一層のアクセス向上を求める声が高まり、21年度から5年間で100万冊以上をデジタル化する事業計画を策定した。
 もともと印刷業を手掛けてきたコロニー東村山は、事業を受注した日本財団(東京)の再委託先として業務を始めた。高橋宏和所長は「デジタル化には既存の業務にはない新しい魅力がある。正確さが求められるが、障害者が中心となり参加できる仕事だ」と強調する。
 培ったノウハウを共有し、再委託先は全国の他の施設にも広がった。23年度は計約3万2000冊を受託し、コロニー東村山ではうち約5000冊を受け持つ。23年5月から同施設に通い始めた奥泉健一さん(38)は「スキャンした本が多くの人に見られる。やりがいは大きく、達成感もある」と話す。
 今後は大学図書館や民間企業からの受注も目指しており、高橋所長は「安定した仕事を確保し、利用者の自立や賃金の向上につながれば」と期待を寄せる。 (C)時事通信社