「医」の最前線 地域医療連携の今

病態に応じたリハビリが必要
~ボツリヌス治療や装着型ロボットを活用~ 【第15回】回復期の医療連携③ 福岡リハビリテーション病院 入江暢幸院長

 脳卒中によるまひは時間の経過とともに変化するため、病態に応じた治療が必要になることがある。福岡リハビリテーション病院(福岡市西区)では、硬くなった筋肉を緩める「ボツリヌス治療」やロボットを用いたリハビリなど、後遺症に対する新しい治療法にも取り組んでいる。

ボツリヌス治療は痛みを伴うが患者の満足度は高い

 ◇硬くなった筋肉を緩める

 脳卒中は、初めは筋肉がだらりと緩む弛緩(しかん)性のまひが起きるが、半年から1年ほどたつと次第に筋肉が硬くなる痙縮(けいしゅく)に移行するケースが多く見られる。そうなると腕を伸ばすことができなくなり、さまざまな日常生活動作が困難になってしまう。これらの症状を軽くするために行われているのがボツリヌス毒素製剤を筋肉に注射する「ボツリヌス治療」である。

 神経と筋肉の接合部から出るアセチルコリンは筋肉を収縮させる働きがあるが、ボツリヌス治療はこのアセチルコリンを抑えて筋肉を緩める治療法で、注射を打つ筋肉の部位は痙縮の状態によって決められる。

 「理学療法士は筋肉の解剖などにも詳しく、患者さんの体を一番よく知っているので、どこの筋肉に打てば指が広がるのか、日常生活動作がやりやすくなるのかということを提案してくれます」と入江暢幸院長。

 ボツリヌス治療によって、服の袖を通しやすくなったり、車椅子からベッドへの移乗が楽になったりすると、介護者にとっても介護が楽になる。また、手のひらが広がることで、特に夏場などでは手指を清潔に保つこともできる。

 「ボツリヌス治療は2010年に保険適応となった治療法で、現在まで5万人ほどが治療を受けています。脳卒中の患者数は約55万人なので、治療を受けた人は約1割程度ということになります。全てが適応になるわけではありませんが、症例数としてはまだ少ないと思います。治療の適応となるのは筋肉が硬くなってしまった人です。手のひらに打つこともあり、痛みを伴う治療です。注射を何カ所にも打たなければならないので決して楽な治療ではありませんが、患者さんの満足度は高い方だと思います」

 ボツリヌス治療は、注射部位をエコーで見ながら電気の流れる針で動きを確認し、1回につき1~5㏄を注射する。持続期間は約3カ月となっているため、3カ月ごとに受けることが推奨されている。

HALを使った歩行訓練

 ◇ロボットで歩行をアシスト

 福岡リハビリテーション病院では、装着型ロボット「HAL」を用いたリハビリ(歩行訓練)も行っている。HALは、脳卒中による損傷で脳からの指令を伝えることができなくなった回路の伝達をアシストする。

 「足を動かそうとすると、脳からの指令が微弱な電気信号となって皮膚の上を走ります。HALは、皮膚に貼付した電極を通じて、その微弱な電気信号を捉えることで動かそうとする足をアシストします。下肢が動くと今度は逆に、その感覚が脳にフィードバックされます。脳からの指令が出て下肢が動き、動いたら脳にその感覚がフィードバックされるという一連の回路ができてきます」と入江院長は説明する。

 HALの対象となるのは、片まひ(半身まひ)や両下肢のまひなど歩行障害のある人で、両下肢にまひのある人は両方の足に付けてリハビリが行われる。しかし、まひが強い人では装着が難しいという。

 「これまでHALは下肢に付けるタイプのものでしたが、今は上肢(肘)に付けるタイプも出てきました。下肢用のHALは、基本的に立位や歩行練習を行うためのものなので、まひが強くて立位や歩行、座ることが難しい人では使うことができません。逆に、まひがすごく軽い人では、そもそもHALは必要ありません。重症度を示す指標に『ブルンストローム・ステージ』というものがありますが、6段階あるステージ分類で「3」程度、つまり中等度くらいのまひが一番HALに適応しているのではないかと思われます」と入江院長。同病院では延べ150~200人がHALを使用しているそうだ。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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