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代わりとなる機能を身に付ける
~脳卒中後の社会復帰に向けて~ 【第16回】回復期の医療連携④ 福岡リハビリテーション病院院長 入江暢幸医師

 脳卒中は40代、50代の働き盛りの人が発症することも少なくない。この年代で後遺症が残った場合にネックとなるのが社会復帰だ。社会復帰には、周りの人の理解や職場の受け入れ体制などが欠かせないため、若くして脳卒中を発症して後遺症で悩む人へのさまざまな取り組みも進められている。

ドライブシミュレーターを使って運転能力を評価(福岡リハビリテーション病院のホームページより)

ドライブシミュレーターを使って運転能力を評価(福岡リハビリテーション病院のホームページより)

 ◇「治す」から「代償手段」へ

 脳卒中の後遺症はまひばかりに目が行きがちだが、一番大きな問題は高次脳機能障害だと福岡リハビリテーション病院(福岡市西区)の入江院長は指摘する。「脳卒中を発症した人の7~8割はまひがあり、なおかつ高次脳機能障害があります。一方、体には何の異常もないのに実は高次脳機能障害があるという人が1割程度おられます」

 高次脳機能障害とは、言葉や思考、記憶や学習といった機能に障害が起きた状態のことで、新しいことを覚えることができなかったり、判断力や集中力が低下したりする。また、感情の抑制が効かなくなるため、日常生活を送る上でさまざまな支障を来す。

 「身体的には自立していて見た目には分からないため、職場の人の理解が得られないことが少なくありません。今まで出来ていたことができなくなったり、仕事でミスをしたりするため、人によっては上司などに指摘され、感情的になり解雇されるといったケースも見られます」

 高次脳機能障害は、遂行機能を検査する「BADS」や記憶力を見る「SPA」、長谷川式認知スケールなどで評価される。

 「画像診断はなかなか教科書通りにいかないことが多く、例えば左前頭葉に障害があっても異常が見られない人もいれば、記憶力が悪くなる人や言語障害が出る人もいます。画像診断は参考にはしますが、画像だけを見て判断するのは難しいですね」と入江院長。

 回復期の期間であればリハビリでの効果が期待できるが、発症して半年、1年と経過して記憶力が悪い場合、治療という視点から、ほかの方法で失われた機能を補う「代償手段」へと視点を変える必要がある。

 「病気と付き合っていくためには、代償となる方法を日常生活の中に取り入れていくことが重要です。具体的には、メモを常に持ち歩いて何でもメモをするなど、スマホでもいいので代償となる手段を獲得することで生活上困ることが減っていきます」

 ◇自動車運転再開への取り組み

 働き盛りの人が、脳卒中後に社会復帰する上で障壁となる一つに、自動車の運転がある。運転はハンドル操作や信号の確認、急な飛び出しなど瞬時の判断が必要になる場面があるからだ。

 「車が運転できなければ仕事復帰が難しいという人が結構おられます。道路交通法では認知症の人は運転できませんが、同じように高次脳機能障害の人も免許や運転に制限がかかる可能性があります。場合によっては免許が取り消されることもあります」と入江院長。

 そこで同病院で行っているのが社会復帰に向けた高次脳機能障害の評価や運転評価だ。数種類ある紙ベースの評価用紙で認知機能や記憶力、注意力などを調べている。これはリハビリの評価テストのようなもので、基準に沿って合否が決まる。また、運転評価ではドライブシミュレーターが使われる。

 「ドライブシミュレーターはリハビリ用の機械で、ゲームセンターにあるドライブマシンのようなものです。画面を見ながら曲がる時にウインカーを出せるか、子どもの飛び出しに反応できるか、アクセルとブレーキを間違わずに踏めるかなど、さまざまな判定を行うことができます。紙面上の評価とドライブシミュレーターを合わせて車の運転が大丈夫となれば、公安委員会への診断書を出すことができます」(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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