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脳卒中の治療で大事な病院間連携
~早期のリハビリで日常生活動作の向上目指す~ 【第13回】回復期の医療連携① 福岡リハビリテーション病院 入江暢幸院長

 脳卒中は高齢化を背景に増加傾向にあるが、発症後に後遺症が残り、日常生活で不自由を余儀なくされている人は少なくない。脳卒中による機能障害を回復させることは難しいが、リハビリによって残された機能を引き出すことは可能だ。そのためには急性期の治療後、速やかにリハビリへと移行する病院間のシームレスな連携が必要となる。急性期医療から回復期医療への医療連携に取り組む福岡リハビリテーション病院(福岡市西区)で長くリハビリの現場に携わってきた入江暢幸院長は「回復期リハへの早期介入によって予後が改善される」と指摘する。

入退院支援センターの役割

入退院支援センターの役割

 ◇急性期から回復期へのシームレスな医療連携

 脳卒中は脳の血管に起きた障害の総称で、損傷を受けた部位によって異なる症状が表れる。機能障害には上肢や下肢、手足などにまひが起こる「運動まひ」があり、触覚や痛覚などが鈍くなる「感覚障害」、話すのが困難となる構音障害や失語症といった「言語障害」、さらに病状によっては「失調」といった障害が見られることもある。また、脳の損傷によって認知機能や記憶力、注意力が低下する「高次脳機能障害」が表れることがあり、大きな問題となっている。

 脳卒中の後遺症が表れると、それまでできていたことができなくなり、生活の質が著しく低下してしまう。そこで、残された機能を最大限に生かし、その人らしい生活を取り戻すために行われているのがリハビリだ。リハビリは急性期の治療後すぐに始めることが推奨されており、福岡リハビリテーション病院では急性期病院との切れ目のないシームレスな医療連携に取り組んでいる。

 「今はどこの病院にも連携室が確立しています。当院では、入退院支援センターが転院の受け入れ依頼や診療情報提供書などのやりとりを行っています。中には、手術後すぐに患者さんの転院を希望する急性期病院もあります。回復期のリハビリを早く開始することで、予後が改善されることが急性期の先生方にも浸透してきているようです」と入江院長。

 同病院では毎朝8時30分に入退院支援センターのスタッフミーティングが行われ、送られてきた診療情報提供書をチェックして、その場で主治医が決定する。「紹介内容で、当院での対応が厳しいケースはまれに断ることはありますが、基本的には全ての紹介を受け入れるようにしています。転院は早い人では翌日、遅くても1週間以内です。以前は脳卒中発症から1カ月くらいでの転院が多かったのですが、今は平均で2週間程度です」

福岡リハビリテーション病院・入江暢幸院長

福岡リハビリテーション病院・入江暢幸院長

 ◇リハビリでADLの向上

 福岡リハビリテーション病院は脳血管リハビリ専門病院として、脳卒中発症後の後遺症を持つ患者を年間400~450人ほど受け入れている。「脳血管リハ」という名称が付いているが、疾患としては脳卒中に限らず、頭部外傷脳腫瘍、頸髄損傷なども対象となる。

 リハビリのゴールは患者の年齢や性別、家族背景や家庭環境などによって異なるが、いずれの場合もADL(日常生活動作)を向上させることが目的とされている。

 「リハビリは決してまひを治すことだけではありません。もちろんまひが良くなれば一番いいのですが、脳が損傷を受けると多くの場合、後遺症が残ってしまいます。まひがあっても困らないようADLを高めることが大切です。例えば、まひがあれば、袖はまひ側から通すとか、階段を上る時は、まひのない健側(けんそく)から、下りる時は、まひのある患側(かんそく)からといったように決まったパターンを練習して習得することで日常での生活が困らなくなります」(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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