「医」の最前線 地域医療連携の今

脳卒中後の生活の質を高めるリハビリテーション
~多職種によるチーム医療で支援~ 【第14回】回復期の医療連携② 福岡リハビリテーション病院 入江暢幸院長

 回復期病院では、医師をはじめ理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などがリハビリを担当する。脳の損傷によって失われた機能を完全に戻すことはできないが、リハビリによって生活の質を高めることはできる。大切なことは、その人らしい生活を取り戻すことであり、退院に向けてはさまざまな職種がチームとなって支援する。

発症から3カ月ほどたつと回復のカーブが緩やかになる

発症から3カ月ほどたつと回復のカーブが緩やかになる

 ◇日常生活動作をベースに継続訓練

 回復期には1日に9単位のリハビリが行われる。1単位は20分なので1日に180分間、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)がそれぞれ3単位ずつ担当する。

 福岡リハビリテーション病院(福岡市西区)の入江暢幸院長は「リハビリと言うと、筋トレをイメージされることがありますが、決して筋トレを行うわけではありません。特に回復期においては、筋トレは緊張が入り過ぎてしまうので逆に動かしにくくなってしまうことがあります」と説明する。

 リハビリでは日常生活動作をベースにした訓練が繰り返し行われる。
「障害が重い方の場合、最初は寝たきりですから体を起こして座る練習から始めます。まひがあると、なかなか座ることができないので、まずは端座位(たんざい、ベッドの端などに腰掛けた状態)をしっかり練習して、その次に立位です。立位ができるようになったら歩行練習です」

 リハビリは段階を追いながら、着衣動作やトイレ動作、歯磨きやひげそり、階段の昇降といった動作を反復練習するが、日常動作の中で最もハードルが高いのは、浴室での「浴槽またぎ」だと入江医師は指摘する。

 「回復の速さは個人差があり、2週間程度で回復する人もいれば、6カ月かかる人もいます。障害の程度にもよりますが、平均すると約3カ月です。退院に向けて一番重要となるのは家庭環境と家族背景です。誰と住んでいるのか、介護者が誰なのか、いるのかいないのか。1人暮らしの場合は自宅に帰るハードルがとても高くなります」

 リハビリは継続することが何より大切だが、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、一部リハビリを停止せざるを得なくなることもあった。

 「入院患者については、病棟ごとに時間を振り分けたり、パーティションで区切ったり、集団リハを中止して個別リハだけにするなどの対応を行いました。しかし、通院の患者さんで、特に小児リハの場合は、感染ルールを守れない子もいるため、2カ月ほど全面停止となりました。小児は大半が維持期のリハになるため、体が硬くなって動きが悪くなった子が続出しました」と入江院長。外来のリハビリは再開されたが、現在も通院をためらう人もいるという。

 ◇回復カーブの目安は発症後3カ月

 「退院のめどについては期間で区切ることはありません。脳卒中は発症して最初の1カ月から2カ月くらいで急速に回復して、3カ月ほどたつと回復のカーブが緩やかになってきます。昔は『6カ月の壁』などと言われていましたが、6カ月経過しても緩やかな回復が見られることもあります。重症度の高い方の場合、まひやADLは発症してから3カ月くらいで予後が見えてくるので、転院後2カ月くらいの時に回復のカーブを見て病状を説明しています」

 退院に向けては家屋調査が行われる。理学療法士や作業療法士、ソーシャルワーカーなどが患者の自宅を訪問して、段差や階段の有無、手すりが必要かどうか、トイレや浴室の状況などを確認して、退院後安全に生活できるよう環境を整える。介護保険を利用している場合は、ケアマネジャーが加わり、退院後に利用できるサービスなどについても情報を共有する。

 「患者さんからは『退院しても大丈夫ですか?』と必ず聞かれます。そんな時は、『トイレも自分でできますね。階段も上り下りできますね。お風呂も入れますね。だったら家で安全に暮らせるはずです』とお話しします。退院の基準は、家での安全な生活が保障された時です」(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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