抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎患者では急速進行性糸球体腎炎の合併頻度が高く、早期の腎保護が極めて重要になる。山梨大学リウマチ膠原病内科学教室の武田伶氏、准教授の中込大樹氏らは、ANCA関連血管炎診断時の腎病理所見に基づき腎予後を予測するスコアを開発したとKidney Int Rep(2024年1月8日オンライン版)に発表した。欧米では腎病理所見から将来的な末期腎不全リスクを予測する手段が検討されているが、日本人集団では初の試みという(関連記事「診療科の横連携でANCA関連血管炎発見へ」)。
国内6施設の221例で検討
対象は、山梨大学病院など国内6施設で2000~19年に新規にANCA関連血管炎と診断された患者221例(平均年齢70±11.9歳、女性51.6%)。病態の内訳は、顕微鏡的多発血管炎(MPA)87.3%、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)9.9%、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)2.7%で、主な背景は血清クレアチニン中央値1.6mg/dL、推算糸球体濾過量(eGFR)中央値31mL/分/1.73m2、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)-ANCA陽性88.7%、プロテイナーゼ(PR)3-ANCA陽性9.9%だった。
治療としてはグルココルチコイド(最大用量40mg/日、96.4%)、ステロイドパルス療法(24.9%)、シクロホスファミド点滴静注(35.3%)、リツキシマブ(16.3%)、血漿交換療法(4.9%)、免疫抑制薬の併用(66.1%)が行われていた。
Kaplan-Meier法で腎生存率を算出し、Cox比例ハザードモデルを用いて全糸球体に占める糸球体病変(硬化糸球体、細胞性半月体、線維細胞性半月体、線維性半月体)の割合、尿細管病変、間質性腎炎、血管病変、eGFR、年齢、MPO-ANCAなどを従来変数とする生存時間分析を実施。ロジスティック回帰モデルにより腎予後予測因子を探索した。
PACS 43%以上で60カ月後の末期腎不全リスク増
中央値で60カ月(四分位範囲6~60カ月)の追跡期間中に末期腎不全は27.6%、死亡は28%に認められた。解析の結果、末期腎不全の独立した予測因子として、糸球体病変では細胞性半月体〔ハザード比(HR)1.029、95%CI 1.009~1.049、P=0.004〕、線維細胞性半月体(同1.030、1.002~1.059、P=0.033)、線維性半月体(同1.105、1.009~1.210、P=0.031)、硬化糸球体(同1.033、1.022~1.044、P<0.001)の割合が抽出された。尿細管病変、間質性腎炎、血管病変、eGFRなどの臨床因子との関連はなかった。これらの結果を踏まえ、武田氏らは末期腎不全の新たな予測スコアとして上記糸球体病変4項目の割合の合計(%で表示)で構成されるPercentage of ANCA Crescentic Score(PACS)を開発した。
受信者動作特性(ROC)解析の結果、60カ月後の末期腎不全を予測するPACSの至適カットオフ値は43%〔感度77%、特異度68%、曲線下面積(AUC)は0.783%、95%CI 0.715~0.852〕だった。
間質性腎炎と細胞性半月体は腎機能改善の予測因子
寛解導入治療開始6カ月後に腎機能の改善(ベースラインからeGFRが10mL/分/1.73m2上昇と定義)は、58例が達成した。腎機能回復の予測因子としては、細胞半月体の割合(オッズ比1.043、95%CI 1.020~1.067、P=0.003〕、間質性腎炎(同1.392、1.007~1.925、P=0.045)が抽出された。
60カ月後の死亡の予測因子としては、フィブリノイド壊死性血管炎(HR 2.093、95%CI 1.049~4.176、P=0.036)のみが抽出された。
武田氏らは「ANCA関連血管炎の腎予後予測について、日本人のビッグデータを用いた初めての解析だ。診断時の腎病理所見に基づく末期腎不全リスクにより治療介入の強度を決定することで、不必要な副作用の回避や、不可逆的な障害の低減につながる可能性がある」と結論している。
(渡邊由貴)