神経性やせ症は体形や体重に対する不安、異常な食行動を特徴とする精神疾患で、男性の10~20倍と女性に好発し、思春期女性の0.5~1.0%が発症するとされる。症状や経過の同質性が高い一方、特に病初期は患者が自分の状態を認識していない例が多く、やせ願望は健常者でも見られるために診断が困難であることから、他覚的に評価できるバイオマーカーの開発が待たれる。京都大学病院精神科神経科の戸瀨景茉氏、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所行動医学研究部心身症研究室室長の関口敦氏らは、神経性やせ症女性患者と健常女性の脳を形態学的に比較する目的で大規模多施設共同脳画像研究を実施。神経性やせ症の重症度と脳の灰白質体積の減少に有意な関連が認められたとの結果をMol Psychiatry2024年1月22日オンライン版)に報告。灰白質体積の減少が拒食症の診断指標になりうることを示した(関連記事「摂食障害の病態にシナプスの機能障害が関与」)。

5施設で登録した103例と健常対照102例を比較

 これまで、神経性やせ症患者の脳MRI画像を用いた研究から、多くの脳領域における脳皮質厚および体積の減少が報告されている。そのため、神経性やせ症には脳の形態学的異常が関連していることが示唆されるものの、重症度や施設間誤差などの検討は不十分である。

 今回の研究の対象は、2014年5月~19年2月に国内の5施設(京都大学病院、九州大学病院、産業医科大学病院、千葉大学病院、東北大学病院)で登録され、『精神疾患の分類と診断の手引き第5版』(DSM-5)の基準により神経性やせ症と診断された女性患者103例。対照群として年齢でマッチングした健常女性102例を選出した。閉所恐怖症、頭部外傷、神経疾患の既往、薬物乱用、差し迫った希死念慮、入院を要する重症例は除外した。

 神経性やせ症群をサブタイプとして摂食制限型(ANR例、58例)と過食・排出型(ANBP例、45例)に分け、BMI、脳MRI画像で評価した脳の構造と機能、安静時の神経活動などを対照群と比較した。

 神経性やせ症の重症度は、28項目から成る摂食障害診断質問紙(EDE-Q)の回答をリッカート尺度で採点した。4つの下位尺度①食事制限、②食事へのこだわり、③体形へのこだわり、④体重へのこだわり―の値および平均値(グローバルスコア)を用いて評価した。

サブタイプごとに関連する脳の部位が異なる

 検討の結果、対照群と比べ神経性やせ症群ではBMI(20.84 vs. 14.75)、総脳容積(1,119.12mL vs. 1,039.96mL)が有意に低値だった(全てP<0.001)。

 EDE-Qスコアは、4つの下位尺度、グローバルスコアとも対照群に比べ、神経性やせ症群および2つのサブタイプで有意に高値だった(全てP<0.001)。

 神経性やせ症群の脳では広範囲にわたり灰白質体積の減少が見られ、特に小脳、中・後部帯状回、補足運動野、中心前回の内側部分、視床において顕著であった。解析の結果、腹側前頭前野(眼窩前頭皮質、腹内側前頭前皮質)および後部島皮質の体積が神経性やせ症の重症度と正の相関を示した。

 サブタイプ別に重症度評価項目と灰白質体積減少との関連を検討したところ、全体では食事制限が腹側前頭前野、グローバルスコアが前帯状皮質の体積減少と正の相関を示し(P<0.014)、ANR例では食事制限が後部島皮質体積の減少と正の相関を示した(P<0.003)。ANBP例および対照群では、灰白質体積減少とEDE-Qスコアに有意な関連は見られなかった。

 今回の結果について、戸瀨氏らは「これまでにも神経性やせ症患者の脳における広範囲な灰白質体積の減少は報告されていたものの、100例以上の脳MRI画像データを用いて検証した多施設共同研究は初めて。報酬系および情動系をつかさどっている腹側前頭前野の体積と神経性やせ症の重症度との関連が確認された」と結論。「こうした脳の特定領域における変化が拒食症の診断に寄与することが期待される」と述べるとともに、「今後の研究では神経性やせ症重症例や慢性例の経過を追跡し、治療による脳形態の変化の検証、脳MRI画像データの治療予後判定への活用につなげたい」と展望している。

服部美咲