血液透析中の慢性腎臓病(CKD)患者は、高頻度に皮膚瘙痒症を合併する。患者のQOLを著しく低下させるため治療法の確立が求められているが、発症原因などは明らかでない。新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部病院教授の山本卓氏、同大学腎・膠原病内科学腎研究センター教授の成田一衛氏らは、透析瘙痒症の関連因子を検討する目的で外来透析患者135例を対象とした横断研究を実施。その結果、「透析瘙痒症と蛋白結合性尿毒症毒素(PBUT)に関連が示され、これに基づき予測スコアを作成した」とClin Kidney J (2024; 17: sfae007)に報告した。
治療法の進歩にもかかわらず重大な合併症のまま
成田氏らが血液透析患者1,773例を対象に行った先行研究では、73%に瘙痒症が認められ、重症例では有意に予後が不良だった。解析の結果、重症透析瘙痒症の危険因子として男性、血中尿素窒素(BUN)高値、β2ミクログロブリン(β2MG)高値、高カルシウム血症、高リン血症が、保護因子としてカルシウム低値、intact副甲状腺ホルモン(PTH)高値が同定された(Kidney Int 2006; 69: 1626-1632)。
しかし、近年の透析療法の進歩に伴いBUN、クレアチニン、尿酸などの蛋白結合性が低く分子量が小さい毒素を効率良く除去できるようになり、新規機序の抗リン血症治療薬などが登場したにもかかわらず、透析瘙痒症の有病率は依然高く、重大な合併症のままである。そこで山本氏らは、蛋白結合性が高く分子量が大きいため血液透析での除去が難しいPBUTに着目。透析瘙痒症との関連を検討する横断研究を実施した。
対象は、新潟県の3施設で2017年8月~18年4月に登録した21~99歳の外来透析患者135例〔男性101例、平均年齢64.9±12.1歳、透析歴中央値89カ月(範囲33~194カ月)〕。透析瘙痒症の有病率、重症度、部位などの特徴と、PBUT(インドキシル硫酸、p-クレシル硫酸、インドール酢酸、フェニル硫酸、馬尿酸)およびその他の臨床検査値(アルブミン、カルシウム、リン酸、β2MG、intact PTHなど)や背景との関連を検討した。
透析瘙痒症の重症度は、痒みの5要素(持続期間、程度、経過、発生部位、痒みによる障害)から成る5D-itch Scale(5~25点、高スコアほど重症)スコアと透析瘙痒症治療薬の使用頻度を用いて評価し、Visual Analogue Scale(VAS、0~10、高スコアほど重症)で正確性を判定した。5D-itch Scaleスコア6点以上/治療薬使用を「瘙痒あり群」、5点以下で治療薬使用なしを「瘙痒なし群」と定義。血中PBUT濃度は、血清標本を用いて質量分析法により測定した。
主成分分析によりPBUTスコアを作成
検討の結果、透析瘙痒症は51例(38%)に認められた。瘙痒部位は背中(54.8%)、下腿(22.6%)、大腿(19.0%)、上腕(17.9%)など全身に分布していた。治療の内訳を見ると、経口薬は抗ヒスタミン薬が25.6%、ナルフラフィンが18.9%、ステロイドが4.1%で、外用薬は抗ヒスタミン薬が14.9%、ヘパリン類似物質が9.5%、ステロイドが8.1%だった。
背景を見ると、瘙痒なし群と比べ瘙痒あり群で血液透析濾過(HDF)の割合が多かったが(19% vs. 41%、P=0.005)、その他の年齢や男女比、透析歴、BMI、臨床検査値などに両群で差はなかった。
透析前の血中PBUT濃度についても、両群で有意差は認められなかった。PBUTは複数の経路を通じて瘙痒症を誘発すると考えられるため、山本氏らは最尤法による主成分分析を行い、PBUTスコアを算出した。検証の結果、残腎機能が保持された患者と比べ、保持されていない患者ではPBUTスコアは有意に高値だった(-0.558 vs. 0.076、P=0.008)。また、瘙痒なし群に比べ瘙痒あり群で有意に高かった(-0.120 vs. 0.201、P=0.046)。
年齢、性、透析歴、透析法(血液透析、血液濾過透析)、KD-QOLの腎疾患特異的尺度を調整した重回帰分析においても、PBUTスコアと透析瘙痒症に有意な関連が認められた(係数0.498、オッズ比1.65、95%CI 1.06~2.56、P=0.027)。
以上の結果を踏まえ、同氏らは「横断研究の結果、血液透析患者ではいまだ瘙痒症の合併率が高く、関連因子としてPBUTを同定した。また、新たに作成したPBUTスコアは透析瘙痒症の予測に有用であることが示された」と結論。「PBUTを除去する手法が確立できれば、瘙痒症だけでなく透析に関連する他の病態の治療に応用できる可能性がある」と付言している。
(小田周平)