慢性腎臓病(CKD)では、腎機能低下に伴うリン排泄減少や活性型ビタミンD産生抑制により骨ミネラル代謝障害(CKD-MBD)が生じる。中でも血液透析患者で合併頻度が高い二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)は、心血管疾患、骨折、死亡のリスクを上昇させる。しかし、SHPTにより過剰分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)と、PTHによる骨吸収促進の影響で増加するALPのどちらがCKD-MBD患者の予後予測因子として有用かは明らかでない。新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部病院教授の山本卓氏らは、血液透析患者の治療と予後に関する国際多施設前向きコホート研究DOPPSの登録者2万8,888例を対象に検討。その結果、「血中PTH値に比べ、血中ALP値が血液透析患者の生命予後と強く関連することが示唆された」とKidney Int Rep2024年1月10日オンライン版)に報告した。(関連記事「イバブラジンの透析患者への有効性は?」)

人種で4群に分けて解析

 心血管疾患、骨折のリスクはCKDの進行に伴って上昇し、透析療法を受ける患者では特に高まる傾向にある。CKD-MBDは合併症と死亡の重要な危険因子であり、特にSHPTは心血管疾患、骨折、死亡などとの関連が報告されている。しかし、血中PTH値と骨折などとの関連の強さについて疫学研究の見解は一致していない。

 山本氏らは、DOPPS第3~7期(2005~22年)に9カ国(日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ベルギー、スウェーデン)で登録された透析歴120日超の外来透析患者2万8,888例(透析歴中央値2.7年)を4群(欧州、日本、米国黒人、米国非黒人)に分類。血中PTH値と血中ALP値の予後予測因子としての有用性を検討した。なお、①重度の炎症〔C反応性蛋白(CRP)40mg/L超〕、②肝硬変、③ビリルビン、ALT、ASTのいずれかが正常範囲上限値の1.5倍超、④ビリルビン、ALT、AST、ALPのうち3項目以上が基準値上限を超過-に該当する者は除外した。

 主要曝露変数は登録時に測定した正規化ALP値および正規化PTH値(血液透析を実施した施設が定める基準値上限で実測値を除した値)とした。年齢、性、黒人、透析歴、13の併存疾患(糖尿病高血圧、冠動脈疾患、心不全、精神疾患、がんなど)、透析量(Kt/V)、BMI、血性アルブミン、リン、カルシウム、CKD-MBD治療などの変数を調整したCox比例ハザード回帰モデルを用いて、心血管死亡または全死亡、大腿骨近位部骨折または全ての骨折についてハザード比(HR)を算出した。正規化ALP値と患者背景の関係については線形混合モデルを用いて解析した。

ALPは全ての転帰と強い単調関係

 登録時の血中PTH中央値(実測値)は、欧州群が227pg/mL、日本群が128pg/mL、米国黒人群が298pg/mL、米国非黒人群が236pg/mL、血中ALP中央値は、それぞれ87U/L、232U/L、92U/L、91U/Lだった。正規化PTH値と正規化ALP値の分布を見ると、正規化PTH値の上昇と正規化ALP値の上昇は正の相関を示した。

 解析の結果、正規化PTH値と心血管死亡および全死亡にJ字形の関連が認められ、骨折とは弱い単調関係を示した(図-上)。一方、正規化ALP値と全ての転帰には有意な単調関係が見られ、正規化PTH値よりも関連が強かった(図-下)。

図. 正規化PTH値および正規化ALP値と有害転帰との関連

51860_fig01.jpg

Kidney Int Rep 2024年1月10日オンライン版)

 さらに、同氏らはPTH値およびその他の交絡因子を調整した上で、ALP値の正常化に関連する因子を検討した。その結果、正規化ALP高値に関連する因子として①黒人、②糖尿病、③低カルシウム血症、④低リン血症、⑤CRP上昇、⑥シナカルセト使用-が、低値に関連する因子としては①男性、②常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)、③肥満、④高カルシウム血症、⑤リン吸着薬使用-が抽出された。

SHPTの治療成績向上に期待

 以上の結果を踏まえ、山本氏らは「血液透析患者において、血中PTH値と比べ血中ALP値は有用性が高い予後予測因子であることが示唆された」と結論。「SHPT治療では、PTHだけでなくALPの適切な評価・管理により、生命予後が改善する可能性がある」と付言している。

(小田周平)