新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンについて、誤った情報や反対意見に影響を受けて接種を忌避する人がいる。ワクチンに関しては、ソーシャルメディア(SNS)の利用が忌避拡大の規模と速度を増幅させるとの報告があり、この機序の解明は公衆衛生上の課題となっているが研究は少ない。東京大学大学院工学系研究科教授の鳥海不二夫氏らは、日本でのコロナ流行下におけるTwitter(現X)の投稿(ツイート)1億件を解析し、ワクチン忌避に関連する因子を検討。政治的な陰謀論がワクチン忌避と関連するなどの結果をJ Comput Soc Sci2024年2月5日オンライン版)に報告した。(関連記事「新型コロナ陰謀論に傾倒する因子を検討」「新型コロナワクチン拒否、その理由は?」)

高反ワクチン群から低反ワクチン群への移行は見られず

 鳥海氏らは、2020年1月~21年12月にTwitterにツイートまたはリツイートされた677万7,598アカウントによる「ワクチン」を含む9,880万5,971件の投稿データを機械学習で解析。その結果、ツイートの大部分(99%以上)が多い順に①ワクチン賛成、②政府のワクチン政策反対、③ワクチン反対-の3クラスターに分類された。

 ワクチン反対に関する新規ツイートまたはリツイートを行っているアカウント(反ワクチン情報拡散アカウント)および、それらをフォローしているアカウントを反ワクチン群とした。反ワクチン群を抽出するため、3クラスターから各5万アカウントをランダムに選出し、それぞれのアカウントのフォローリストに占める反ワクチン情報拡散アカウントの割合を算出して、反ワクチン感情の強さにより非反ワクチン群(フォローリストに占める反ワクチン情報拡散アカウントの割合が下位25%:0.24%未満)、中程度反ワクチン群(同下位25%から上位25%の間:0.24%以上12.3%未満)、高反ワクチン群(同上位25%:12.3%以上)に分類した。

 2020年1月と2021年12月の両時点でフォローリストが確認できたアカウント11万5,333件について検討した。その結果、高反ワクチン群(25%)のうち2020年1月時点でも高反ワクチン群だったのは11.8%と、2年間で2倍以上に増加していた。内訳を見ると、低反ワクチン群からの移行が1,921件、中程度反ワクチン群からの移行が6,466件だった。一方、中程度反ワクチン群から低反ワクチン群への移行は1,030件と少なく、高反ワクチン群から低反ワクチン群への移行は見られなかった。

高反ワクチン群は政治、低反ワクチン群は趣味をツイート

 鳥海氏らは、高反ワクチン群の特徴を明らかにするため、まず低反ワクチン群とツイートの内容を比較したところ、高反ワクチン群は低反ワクチン群と比べて政治に関するツイートが多く、低反ワクチン群は主にゲームやアニメなど趣味についてのツイートが多かった。

 次に、低/中程度反ワクチン群から高反ワクチン群への移行に関連する因子を探索するため、2020年1月時点で高反ワクチン群だったアカウントとコロナ流行開始以降に高反ワクチン群に移行したアカウントを比較した。前者では政治的関心が強くリベラルな意見を持つ傾向にあり、後者では政治的な傾向が弱い一方、ツイッターのプロフィールに陰謀論やスピリチュアリティに関する単語が高頻度で書かれていた。

 最後に、2022年3~9月に特定の政党や党首をフォローしている割合を分析したところ、コロナ流行開始以前からの高反ワクチン群は立憲民主党やれいわ新選組、日本共産党のアカウントをフォローしている割合が多かったのに対し、コロナ流行開始以降の高反ワクチン群ではこれらのアカウントをフォローする割合が少なかった。ただし、ワクチン政策の見直しを訴える参政党のフォロー率は高かった。

図.高反ワクチン群と非ワクチン群のSNS特徴

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(東京大学プレスリリースより) 

 今回の結果について、同氏らは「反ワクチン情報を収集する目的でSNSを使い始めた人は一貫して反ワクチンである傾向が見られ、利用開始初期になんらかのきっかけで反ワクチンのインフルエンサーをフォローすると、反ワクチン感情が増強する可能性が示された。また、政治的陰謀論やスピリチュアリティへの傾倒がワクチン忌避に関連していた」と結論している。

服部美咲