日本における子宮頸がんの年間新規診断数は約1万人、死亡者数は約3,000人と報告されている。子宮頸がんの主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)感染であり、ワクチン接種と定期検診により多くが予防できる。国内では、2013年のHPVワクチン定期接種化直後にさまざまな症状が現れたとの報道が相次いだことをきっかけに不安が広がり、積極的接種勧奨が差し控えられた。2022年4月にようやく接種勧奨が再開され、1997年4月2日~2007年4月1日生まれの女性に対するキャッチアップ接種事業も行われている。岡山大学保健管理センター准教授の樋口千草氏らは、同大学の学生と教職員を対象に行ったキャッチアップ接種前後に調査を実施。副反応について、接種前は半数以上が不安を感じていたが、接種後には9割が「不安はない」と回答したなどの結果をまとめ、同大学の公式サイトで公開した。(関連記事「HPVワクチンキャッチアップ、対象者自ら推進」「親の勧めがHPVワクチン接種を促進」)
接種後2時間以内の副反応は1割未満、重篤例の報告なし
HPVワクチンのキャッチアップ接種事業は、2025年3月末で終了する予定である。そのため、公費で3回接種を完了するには2024年9月までに接種を開始する必要がある。
岡山大学では、学内におけるHPVワクチン接種推進の取り組みの一環として、2023年6月に全ての学生および教職員1,333人(女性1,029人、キャッチアップ接種対象者606人)を対象にオンラインアンケートを実施。子宮頸がんおよびHPVに関する知識、ワクチン接種希望などについて尋ねた。
キャッチアップ接種対象者の回答を見ると、自身が対象であることの認知度は72.1%と高かったが、キャッチアップ接種について「よく知っている」は29.7%、2025年3月末で公費接種が終了することを知っていたのは38.3%だった。接種状況は完了が20.7%、接種途中が9.4%で、未接種だが接種を希望するは51.4%、希望しないは4.3%だった。
これらの結果を受け、同大学では希望者に対するキャッチアップ接種および接種後アンケートを実施した。
ワクチン接種は2023年8月(接種者150人)、同年10月(同130人)、2024年1月(同120人)に実施し、アンケートの有効回答は、それぞれ113人、101人、85人だった。
接種後2時間以内の副反応発現頻度は、1回目が4%、2回目が8%、3回目が6%といずれも少なかった(図1)。副反応で最も多かったのは注射局所の疼痛で、発現頻度はそれぞれ56%、65%、60%に上ったが、3日目までに大半が消失していた。局所の腫脹は28~41%、発熱は3~5%に認めた。継続した治療を要する重篤な副反応は認められなかった。
図1.接種後2時間以内の副反応の発現頻度と症状
症状は「コロナワクチンよりも軽い」が8割
ワクチン接種後の痛みについて、最も強い時点の程度を11段階〔0点(痛みなし)~10点(想像しうる最大の痛み)〕で尋ねたところ、3回とも0~3点の割合が約9割を占めた。また副反応の症状を新型コロナウイルスワクチンと比較すると、いずれも8割前後が「軽かった」「やや軽かった」と回答した(図2)。
図2.HPVワクチンと新型コロナウイルスワクチンの副反応症状の比較
1回目接種後に接種を決めた理由を尋ねたところ、最多は「子宮頸がん予防」で、次いで「感染予防」「無料で接種できるから」の順で、「親の勧め」「副反応と安全性を理解した」との回答も多かった(図3)。
図3.HPVワクチン接種を決めた理由
(図1~3全て岡山大学プレスリリースより)
接種前の気持ちを尋ねたところ、不安(「不安がとても強かった」「不安が強かった」「不安は少しあった」)と回答した割合は、1回目の66%に対し、2回目は45%、3回目は48%と低下傾向にあった。接種前に感じた不安についての自由記述を見ると、1回目は半数以上が記載し、ほとんどが副反応への不安だった。接種後の気持ちについては、3回とも約9割が「不安はない」と回答した。
以上の結果を受け、樋口氏らは「大学の学生・教職員を対象とした調査から、HPVワクチンキャッチアップ接種事業の認知度は十分でなく、対象者の半数が副反応に不安を感じているものの、接種後には約9割で不安が解消していることが示された。また接種後短期の副反応頻度は低く、重篤例の報告はなかった」と結論。「今回の知見をHPVワクチン接種について悩んでいる女性や周囲の人に周知し、ワクチン接種やがん検診について考え、話し合う機会につながることを期待したい」と展望した。
(服部美咲)