米・Harvard Medical SchoolのArya Haj-Mirzaian氏らは、文献のシステマチックレビューとメタ解析を行った結果「PI-RADS(Prostate Imaging Reporting and Data System)スコアと前立腺特異抗原(PSA)濃度(PSAD)を併用することで、臨床的に意義のある前立腺がん(csPCa)の見逃しを最小限に抑えて前立腺生検を省略することが可能だ」とJAMA Netw Open(2024; 7: e244258)に報告した。その基準値とは―。

csPCa疑い例のみを対象とした試験を抽出

 前立腺がんに関しては「治療が不要」ながんの存在が明らかになって以来、生検についてトリアージ(選別)の考えが浸透しつつあり、PI-RADS(MRIによる画像所見を1~5点で判定するスコアリングシステム。1点はがんの可能性が極めて低く5点はがんの可能性が極めて高い)による判定が広く行われるようになってきた(参考記事:「前立腺がん死亡率、監視療法と根治療法に差なし」、「前立腺がん診断に適切なMRIの活用を」)。

 現在、主要ガイドラインでは、csPCaの同定にMRI検査を使用することが推奨されているが、PI-RADSスコア3点以下の患者に対する標的生検の必要性に関してはコンセンサスが得られていない。

 Haj-Mirzaian氏らは、主要文献データベースに2022年7月までに収載された文献を検索、①csPCa疑い例のみを対象としている、②生検施行前に全例に対してMRI検査を施行し、PI-RADSによる評価を行っている、③PSA値など関連臨床パラメータのデータがある―などの基準を満たす論文72報を抽出。研究の質は、診断精度研究のバイアスリスク評価ツール(QUADAS-2)およびNewcastle-Ottawaスケールで評価した。

PI-RADS 3点以下、PSAD 0.10ng/mL2未満で生検不要

 対象は合計3万6,366例で、年齢中央値は65.6歳(範囲61.3~69.3歳)、黒人の割合が14%(同1~29%)だった。PSAおよびPSADの中央値はそれぞれ7.8ng/mL(同5.1~14.7ng/mL)、0.15ng/mL2(同0.10~0.33ng/mL2)だった。

 単変量のメタ回帰分析の結果、PI-RADS 5点(回帰係数β 23.18±4.46、P<0.001)およびPI-RADS 4点(同7.82±3.85、P=0.045)は、csPCaリスクと有意な関連を認めたが、PI-RADS 3点では有意な関連が認められなかった(同-4.08±3.09、P=0.19)。

 次に多変量モデルによるメタ解析を行ったところ、PI-RADS 5点(回帰係数β 9.19±3.33、P<0.001)およびPSAD(同15.50±5.14、P<0.001)のみがcsPCaリスク上昇と有意な関連を認めた。

 PI-RADS 3点以下でPSADが0.10ng/mL2未満の患者では、感度97%(95%CI 95~98%)、陰性的中率94%(同89~96%)、害必要数(number needed to harm;NNH)17 (同9~27)で、不要な生検を30%回避できることが判明した。

前向き試験/長期追跡による検証必要

 以上の結果を踏まえてHaj-Mirzaian氏らは「前立腺がんの診断において、生検不要な患者の同定は依然、重要な課題である。今回のシステマチックレビューとメタ解析から、PI-RADSスコアで評価したMRI所見が陰性または決定的でない(=3点以下)、かつPSADが低値(0.10ng/mL2未満)の患者では、高い感度で生検を回避できる可能性が示唆された」と結論。しかしこの方法でも3~5%程度のcsPCaが見逃される可能性は否定できないため①もっと低いPSAD値を閾値とし、他の変数も加えた前向き試験を行うこと、②生検を省略した症例の長期追跡―が求められると付言している。

木本 治