がん化学療法によって来す可能性がある化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は感覚低下、知覚異常、感覚異常など、運動障害や感覚障害を伴うことがある。痛みを伴う重度CIPNの持続は化学療法の減量/中止につながり、予後やがん関連死亡に悪影響を及ぼす可能性があるが、発現率などは分かっていない。米・Mayo ClinicのRyan S. D'Souza氏らは、日本を含む28カ国77報のCIPN 1万962例を対象にシステマチックレビューとメタ解析を実施。CIPN患者の40%超が慢性疼痛を伴っていたものの、GRADEの確実性は「非常に低い」と見なされたと、Reg Anesth Pain Med2025年1月28日オンライン版)に報告した。確実性の根拠として重度CIPNは、国や化学療法レジメンなど背景のばらつきが多いことなどを挙げている。

疼痛の持続は薬剤減量や中止に、予後悪化やがん関連死亡を高める可能性

 CIPNの発現および重症度は、化学療法薬の種類、累積投与量、神経障害の有無や神経毒性を有する他剤使用の有無など複数の要因によって影響を受ける。多くのCIPN患者は無痛性神経障害を経験するが、疼痛を伴う場合はより負担が大きくQOLが低下する可能性がある。また、疼痛を伴うCIPNは重大な身体機能障害と関連し、医療経済的負担が大きいなどの問題がある。痛みを伴うCIPNの持続は化学療法の減量や中止につながり、予後悪化やがん関連死亡のリスクを高める可能性が報告されている(JCO 2014; 32: 1941-1967)。

 しかしD'Souza氏らによると、痛みを伴うCIPN発現率に関するシステマチックレビューとメタ解析はなく、発現率は不明であるという。そのため同氏らは、CIPNと診断されたがん患者における3カ月以上の慢性疼痛性CIPNの有病率を把握する目的で、システマチックレビューとメタ解析を実施した。各研究の推定値は二重アークサイン変換を用いて変換し、逆分散異質性モデルを用いてメタ解析でプールし、サブグループ解析は地域、性、化学療法レジメン、原発がんの種類などに基づいて実施。メタ回帰分析は研究デザイン、人間開発指数(HDI)、発表年に基づいて行った。

 論文はOvid MEDLINE、Ovid EMBASE、Web of Science、Scopusなどの電子データベースで検索し、抽出した2000~24年に発表された28カ国77報のCIPN 1万962例(うち、痛みを伴うCIPNは4,545例)を最終解析対象とした。

 主な研究は、多い順に前向き観察研究が35件(45.45%)、後ろ向き観察研究が29件(37.66%)、二重盲検ランダム化比較試験(RCT)が13件(16.88%)で、サンプルサイズは7~1,760例(中央値61例)だった。報告数が最も多かったのは米国(13報、16.88%)および日本(10報、13.00%)だった。

発現率が最も高いのはプラチナ系薬およびタキサン系薬

 解析対象のうち慢性疼痛性CIPNの有病率は、全体で41.22%(95%CI 32.40~50.19%、95%予測区間23.71~61.28%)と推定された。ただし、研究間の異質性は大きかった(=95.27%、95%CI 94.58~95.86%、P<0.01)

 サブグループ解析を行ったところ、大陸別では慢性疼痛性CIPNの有病率が最も高かったのはアジア(46.52%、95%CI 26.35~66.99%)で、最も低かったのは欧州(35.92%、同26.53~45.58%)だったが、サブグループ間に有意差は認められなかった。男女別にみても発現率は同程度だった(女性75.31%、同52.28~94.84%、男性70.94%、同43.23~94.71%)

 慢性疼痛性CIPNの発現率が最も高かった薬剤はプラチナ系薬(40.44%、95%CI 4.48~80.35%)およびタキサン系薬(38.35%、同22.78~54.54%)で、最も低かったのはFOLFOX療法(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン、16.43%、同6.93~27.19%)だった。ただし有意差はなかった。

 原発がんのうち発現率が最も高かったのは肺がん患者(60.26%、95%CI 26.19~91.58%)で、最も低かったのは卵巣がん(31.40%、同23.91~39.15%)およびリンパ腫(35.98%、同15.33~58.07%)だったが、いずれも有意差はなかった。

有病率および予測因子への理解は早期診断と個別化治療に重要

 GRADEシステムによるエビデンスを評価した結果、慢性疼痛性CIPNの推定値の確実性は、不一致(統計的異質性および方法論的異質性)と不正確さ(95%CIおよび95%予測区間が広い) から、「very low(非常に低い)」と判定された。

 研究デザイン(調整済みR2=0.049、P=0.057)、HDI(β=−1.185、95%CI −2.813 ~0.443、t=−1.450、P=0.151)、出版年(同0.014、−0.006~0.034、t=1.421、P=0.159)のいずれも有病率推定値の有意な調整因子ではなかった。

 今回、欧米を除く多くの国の研究が1~2報だったため、意味のあるサブグループ解析を行うことができず、慢性疼痛性CIPNの有病率はサブグループによって異なり、統計学的異質性が見られた。

 D'Souza氏らは、慢性疼痛性CIPNの有病率および予測因子に対する理解は、早期診断を促し、個別化治療を開発する上で重要だと指摘。「われわれの検討結果は、CIPNが世界的に重大な健康課題であることを示しており、がん診断例の40%超が慢性的な疼痛を伴っていた」と述べている。

(編集部・田上玲子)