Dr.純子のメディカルサロン

コロナ禍でも、こうすればロックライブは可能 藤井聡・京都大学大学院教授に聞く

 ◆具体的な対策は

 海原 先生は8月に東京・町田で、京都大学のウイルス学専門の宮沢孝幸准教授とライブイベントを監修すると聞きました。どのような対策で実施するのか、教えてください。

 藤井 まず、体調確認と入場時体温測定。それから、事前に注意書きで、以下5点のお願いを告知します。この5点は、チラシにして会場でも配布し、イベント冒頭に、当方から内容について解説します。

 1)マスクの常時着用:ドリンクを飲む際の会話はやめる
 2)歓声や大声の会話も避ける(マスクの間から飛沫が漏れる)
 3)目・鼻・口を触らない
 4)入場時・終了後の手洗いとアルコール消毒
 5)当日の帰りも飲み会は避ける

 さらに、60代以上の人に対する参加自粛要請は必要だと思います。新型コロナウイルスは、ご存知のように、60代以上で重症化率が高いからです。

 高齢者、基礎疾患がある人、妊娠中の人について、感染を防ぎ、医療崩壊を防ぐことが必要です。

 ライブ会場には次のことを守ってもらいます。

 ・30分に1回の換気
 ・前の列にはフェイスシールドを配布
 ・食べ物の提供はしない

 出演者には、2日前に唾液によるPCR検査が実施できるなら、それが一番確実です。唾液の採取は、被験者本人が対応可能だからです。できない場合は、次のような対策が考えられます。

 ・アクリル板やフェイスシールド付きマイクの使用
 ・楽屋の消毒・換気の徹底
 ・「打ち上げ」なし

入場者の名前と連絡先を記入してもらう管理シートや消毒液など=2020年8月2日、東京・町田〔藤井教授提供〕

入場者の名前と連絡先を記入してもらう管理シートや消毒液など=2020年8月2日、東京・町田〔藤井教授提供〕

 それから、来場者全員の連絡先を記録しておくことも必要です。無自覚感染者が来場していたことが、事後的に分かった場合等に、迅速に保健所と連携できるようにするためです。

 ◆60代以上は参加禁止?

 海原 徹底した対策ですね。飲食や会話による飛沫というのは、ライブという雰囲気では、つい忘れがちですから、慣れないと難しいですね。

 中には、「ここまでしてやるのか」「ここまでして聴くのか」という声もありそうですが、限りなく感染リスクゼロを目指しながらライブをするという一つの方向性だと感じました。

 あと、60代以上のライブ参加禁止ですが、これは悲しいものがあります。私はジャズのライブをするのですが、60代以上の人も多く、例えば、そうした場合、フェイスシールドを着用して参加する方法もありでしょうか。ただ、どうしても、会場に行く道中のリスクはゼロではなく、悩ましいところです。

 藤井 もちろん、60歳以上も、先に紹介した対策を徹底することで、ほぼリスクをゼロにすることができますから、参加は可能です。ただ、参加するに当たっては、感染した場合の重症リスクが高いことを念頭に置いて、より注意深く振る舞うという前提で参加するということが必要だと思います。

 とはいえ、それではやはり、後期高齢者になると、さらに重症化リスクが高まりますから、やはり70歳以上は参加を控えていただくようにする等の対応もあると思います。

フェイスシールド付きマイクの前で歌う出演者=2020年8月2日、東京・町田〔藤井教授提供〕

フェイスシールド付きマイクの前で歌う出演者=2020年8月2日、東京・町田〔藤井教授提供〕


 海原 アーティストにとっても、ライブや舞台を主催する関係者にとっても、大変に有益で、希望が持てるお話でした。

 やめてしまう方が簡単で、世間から非難されることはないでしょう。しかし、できる限りの対策をして、重症化するリスクを減らし、文化やアートを継続するのも、また一つの人間の生き方の選択肢だと思いました。

 ただ、それには、参加する人が一人でも、その条件をおろそかにして、自分一人くらいいいだろうと思ったり、運営側がほんの一つの手抜きをしたりすることで、途端に崩れてしまう非常に厳しい道でもあるのだと思います。

(文 海原純子)


 藤井 聡(ふじい・さとし)

 京都大学卒業。同大准教授、東京工業大学教授を経て京都大学大学院教授。京都大学レジリエンス実践ユニット長。2012年から18年まで安倍内閣・内閣官房参与を務める。専門は公共政策論。文部科学大臣表彰など受賞多数。著書多数。「表現者クライテリオン」編集長。



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