特集

艦詰日記〜ダイヤモンド・プリンセス号乗船から帰国まで〜⑧
ドアを施錠し消毒徹底、これが「隔離」だ 新型コロナウイルスの脅威の中で過ごした46日間
元日教組情宣部長 防災士 平沢 保人


 【2月20日、隔離2日目】クルーズ船から死者2人

 午前6時45分起床。手順通りにごみ出し。同8時朝食。することがないから、起床と同時にテレビをつけ、スマートフォンでニュースを見た。これが日課になる。検温、体調チェックは館内電話を通して妻に伝えた。検疫所も気を使ってくれて、片言の日本語で「きょうも一日楽しく過ごしてください」と電話があった。妻に教えてもらったようだ。「楽しく過ごせ」とはなかなか難しいが、精いっぱい気を使ってくれていることは分かった。その日以降も電話は続いた。

韓国のテレビニュース。画面右上に感染者や検査中の人数が表示されている。映っているのは文在寅大統領

韓国のテレビニュース。画面右上に感染者や検査中の人数が表示されている。映っているのは文在寅大統領

 ◇陰性で下船した乗客から陽性反応

 きのうの国会議員とのやりとりの続きになるが、「隔離は3月3日まで。帰国は3月上旬になる」と伝えると、「国内上陸者には厚生労働省が確認電話を入れている。外務省は平沢さんの携帯番号が分からないと言っており、在韓日本大使館に連絡していただければありがたいという雰囲気」との返信が。早速、仁川検疫所を通じ大使館と連絡を取った。折り返し領事部の担当官から連絡があり、丁寧な対応。健康状態のほか、困っていることはないかと問われたが、今のところはない。

 悲しい知らせも届いた。記者から取材も兼ねて「クルーズ船の乗客で重症化していた方2人が亡くなった。直近まで船にいた方として、この事態をどう受け止めるか」と聞かれた。「他人事でないだけにショックだ。政府も船も初動の対応の不備がこのような結果になったのではないか。災害に人災が追い打ちをかけた。今からでも改めるにしかずで、国際的な基準で対応を行うべき」と答えた。続けて「もっと率直な気持ちは、『それ見てみぃ。アホか』だが、あまりに悲しい」とも。午後3時には「内閣官房と厚労省職員の感染確認」「PCR検査を求める人のたらい回しも起きている」と教えてくれた。感染者も13人増の634人という。

 午後1時30分昼食。マスクや塗り絵と色鉛筆のセット、指圧用の玉が入った袋が差し入れられた。同7時30分夕食。夜は寝ることしかない。

 【2月21日、隔離3日目】オーストラリア人下船者2人が陽性

 午前6時半起床。テレビをつけ、NHKを見て、ごみ出し。同8時半朝食。後はスマホでニュースを見るしかすることがなかった。オーストラリア政府が、帰国したクルーズ船の乗客164人中2人から陽性反応が出たと発表したという。あの船から下船できたのは、陰性の者だけだったはずだ。

 さらに、厚労省は20日以降、下船者に渡す健康カードに「2週間は健康状態を毎日チェックし、不要不急の外出は控える」と書き加えたという。要するに2週間の自宅待機だ。では、19日に下船した443人はどうするのか。公共交通機関で帰宅してOK、無罪放免ではなかったか。

 午後2時昼食。同6時に大きなミカンと韓国のお菓子の差し入れ。同8時夕食。寝るまでテレビを見て過ごした。

 【2月22日、隔離4日目】ついに下船の日本人から陽性反応

 午前6時半起床。ごみを出して朝食。スマホのニュースは、豪州で帰国者から新たに4人が陽性、計6人に増えたと続報を伝えた。米国でも21日に21人の陽性反応という。

 心配していたことが日本でも起きた。下船した栃木県の60歳代の女性から陽性反応が出た。さらに、下船者23人について、必要な検体検査から漏れていたことが分かった。2月5日からの健康観察期間中に行うべき検査をしていなかったという。ただあきれるしかなかった。

 午後1時30分昼食。同7時30分夕食。

 夜遅く、国会議員にメールを送った。「隔離生活4日目。栃木で帰宅した女性の感染が確認された。当然の結果とはいえ、恐ろしいものがある。判断ミスは人災の極み」。そして「15日に私たち夫婦から検体を採取した結果の取り扱いはどうなっているのだろうか。関係当局に聞いてもらえるとありがたい」とお願いした。

内容は変わるが、三食とも簡易な容器に入ったお弁当。食べ終わると残滓を容器ごと消毒液をかけてゴミ箱に。不満はいえないとはいえ、さすが2週間続くとつらいものがある

内容は変わるが、三食とも簡易な容器に入ったお弁当。食べ終わると残滓を容器ごと消毒液をかけてゴミ箱に。不満はいえないとはいえ、さすが2週間続くとつらいものがある

 【2月23日、隔離5日目】乗客死亡3例目

 午前6時半起床。同7時半ごみ出し。同8時20分朝食。昼食は午後12時20分。同7時に瓶詰のキムチなどが差し入れられた。食事に付くキムチは量が少ないから助かる。同7時30分夕食。

 香港でも下船者1人が陽性。台湾では全員陰性という。午後8時、記者から「乗客死亡3例目」との情報が入った。クルーズ船の感染者は総計691人とあるが、帰国後の感染判明はどうカウントされるのだろうか。

 【2月24日、隔離6日目】下船者、続々と陽性反応

 下船者の続報。香港では新たに下船者4人が陽性で計5人に。米国の陽性者は計39人に増え、英国、アイルランドで4人。さらに、横浜検疫所の検疫官ら計6人が感染。暗澹(あんたん)たる気持ちになる。
 ソウルにいる娘から宅配便が届くが、そっと入れておいてくれと頼んだワインオープナーは到着前に取り上げられていた。これで、スーツケースに隠し持つワインをひそかに飲むもくろみはついえた。

 【2月25日、隔離7日目】下船者28人発熱、陽性2人目

 午後2時30分、記者から「下船者28人発熱、詳細まだ」との情報。心配していた通りだ。情報をもらっても、こちらからは返すものがないから恐縮だ。

 「日本のPCR検査数は少ないのではないか。韓国はどうなっているのか」と国会議員から問われたので「韓国語は片言だがニュースを聞くと、韓国も日本以上に大変」「韓国では検査中の数も報道している。2月24日午後6時40分現在、感染833、完治22、検査中1万1631。これがテレビ画面右上に表示。検査中が1万以上でびっくりしている」と返信。検疫所に入所した時、韓国の感染者数は2桁台で、その後、大邱の新天地イエス教会で集団感染が発生したが、PCR検査の実施数は桁違いに多く、日本とは比較にならなかった。情報公開もされていた。

 さらにこちらから「せめて下船後、2週間自宅待機した人に再度の検査はできないものか。医学的に無意味かもしれないが、船内の隔離に続いての2週間の自宅待機だから、(陰性なら)『安心の保証書』として労に報いる意味はあるのではないか」と返した。

 さらに、午後11時に記者が情報をくれた。「下船者の陽性2人目が出た」という。徳島県在住で四国では初の感染者。栃木県に次いで、下船者から感染が確認された。「確率からすると、下船者からの感染者数が少ないのではないかと懸念する」と返した。眠れない夜になった。

 【2月26日、隔離8日目】クルーズ船からフィリピン人が下船

 午前9時過ぎに「クルーズ船のフィリピン人538人(うち乗客は7人)中、感染80人。他の約400人は帰国。14日間隔離される」(ロイター)とのニュースを見た。早速、記者に「米国をはじめ他の国は、チャーター便の件など大きな記事になっていたが、フィリピンについての記事は見たことがない。差別の構造に悲しくなる」と伝えた。本来、不満をぶつける相手は記者ではなく、政府だ。入院したというあのサラマーのおじさんは元気に帰国できただろうか。無力感に苛まれた。

 加藤勝信厚労大臣は、下船した日本人約970人中813人と連絡が取れ、発熱などの症状がある45人のうち、栃木、徳島、千葉の4人(いずれも20、21日下船)から陽性反応が出たと国会で答弁。千葉のDPAT(災害派遣精神医療チーム)の医師も感染が確認された。クルーズ船の感染者は14人増の705人、死者は4人というが、帰国してからの発症者や下船後の発症者はどうカウントされているのか分からなかった。


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