特集

艦詰日記〜ダイヤモンド・プリンセス号乗船から帰国まで〜⑧
ドアを施錠し消毒徹底、これが「隔離」だ 新型コロナウイルスの脅威の中で過ごした46日間
元日教組情宣部長 防災士 平沢 保人


 【2月27日、隔離9日目】乗員がようやく下船

 クルーズ船乗員の下船がようやく始まった。埼玉県の税務大学校で隔離生活を送ると報道された。船内に残るのは約150人とのこと。記者にメールを送った。「陰性の乗員がようやく下船。乗員には申し訳ないことをした。まだ船内に残る乗員は、異国でどんな思いだろうか。乗客は下船後に隔離されず、なぜ乗員のみ隔離されるのか。乗客の下船後、乗員は自室待機など感染防止策を取っていなかったのか」。返信が来たが、「問題山積。ポイントが多過ぎ」と記者も悩んでいた。「休校問題など大変だと思う。下船後、日本も韓国も状況が一変しているのではと心配している。政府もクルーズ船どころではないといったところか」と返信した。相手は忙しい。こちらにできるのは心配することだけだ。

 【2月28日、隔離10日目】杓子定規な対応

 ニュースは、検査漏れの23人中3人は検査拒否だったと伝えた。「やれやれ」。もうそれしかない。

 知り合いの国会議員が、日本でのPCR検査の結果について厚労省に再三問い合わせてくれたようで、メールが来た。「検査結果は本人でないと開示できない」「夫婦そろって電話口に出る必要がある」という。「妻とは別室なので、厚労省への連絡は検疫所の退所日以降にならざるを得ない。厚労省の対応は平時ならやむを得ないが、先生方に私と連絡を取りたいと頼んでおきながら、ずいぶん杓子(しゃくし)定規」と伝えた。

 2週間前の検体採取なのでいまさら結果に意味はないが、中途半端は気持ち悪い。「クルーズ船の下船者の感染が相次いでおり、心配している。私たちは19日の検査が陰性で、3月3日に再検査の予定。退所はそれ以降で、早ければ4日と思っているが、確定していない」と、こちらの状況も伝えた。

 【2月29日、隔離11日目】せっかくの〝予行演習〟が無駄に

 仙台市で、20日に下船した男性から感染が確認されたと報じられた。東北で初。東京では死者が1人増えて計6人。検疫官の感染も3人。英国でも乗船していた男性が死亡した。イスラエルでは、退院後に帰国した女性から再び陽性反応が出たという。これらはどうカウントされているのだろう。もう、個人で数字を追うのは困難だ。20カ国84人の乗員が下船し、船の航行機能を維持するために残っていた乗員60人も下船すると伝えられた。

 日本や韓国では、国内の感染が拡大。クルーズ船どころではない状況が進行していた。日本政府は、クルーズ船の〝予行演習〟を無駄にしてしまうのか。

 【3月1日、隔離12日目】乗員全員の下船が完了

 韓国では三一節。1919年の独立運動の記念日だ。文在寅大統領の演説は、日本批判のトーンが抑えられ、「共に危機克服を」とコロナ対策での共同歩調を呼び掛けた。

 クルーズ船関連のニュースでは、豪州に帰国した乗客164人のうち感染者は10人。うち1人が死亡したと報じられた。乗客で亡くなった方は7人になった。台湾では、陽性と診断され治療して陰性になった後、2月26日に帰国した人がまた陽性になったという。さらに、クルーズ船に最後まで残っていた船長以下63人が下船し、インドネシア人68人がチャーター機で帰国。2月27日から始められた乗員の下船が完了したという。

 日本では、静岡で下船者の陽性が確認された。2月20日の下船後、すぐにスポーツジムの温浴施設を利用していたため批判を浴びたのだが、何か釈然としない。

 私たちも下船者であり、これは自分たちにも関わることだ。心配する親戚の待つ済州へ行こうか、などと考えていたが、きょうから済州─関西国際空港線が欠航になるという。釜山─関西国際空港線も欠航になっているので、済州に行ったら、日本に帰るにはまたソウルに戻ってくる必要がある。済州行きは断念せざるを得なかった。

 【3月2日、隔離13日目】3日に退所できると思ったが……

 下船した乗員1人から陽性反応。クルーズ船の感染者は合計706人になったという。

 私たちは、隔離開始から14日目の3月3日に仁川検疫所を退所できると考えていた。ところが、3日に検査して結果が陰性の場合でも、政府から正式な退所の許可が出るまでに数日かかると言われた。「それは困る」と、妻を通して掛け合ったが、検疫所レベルで判断できる問題ではないようだ。「3月4日には退所に必要な書類が届く。ただし、時間は分からない」ということだから、隔離が5日まで延びるかもしれない。後は「陰性」であることを祈るのみだ。

 一方、日本大使館からは、帰国に関して特別必要なことはない、との連絡が来た。大使館からの連絡はこれで2度目。検査結果、帰国方法を知らせてほしいという。仁川検疫所とのやりとりの状況を伝え、早ければ4日、検査結果を受け取る時間によってはもう1日、帰国が遅れる可能性を伝えた。

 【3月3日、隔離14日目】都合3度目のPCR検査

 朝からPCR検査が始まった。隔離されている部屋に入るたびに防護服を着替えるため、時間がかかるという。午前10時5分、私の番だ。防護服姿の医師が内ドアから入ってきた。隔離後、部屋に人が入ったのは初めてだ。入所の際の検査同様、検体は喉、鼻、痰(たん)から採取。

 午後になって、「正式な退所の書類をあす朝一番にソウル市内から届ける手配ができた。午前9時過ぎには退所できる」という。さらに「消毒作業のため、午前10時には退所を完了するように」と命じられた。急な話に「そんな無茶な」と思ったが、ここはホテルではない。検疫所だ。交渉して退所時間を同10時半にしてもらい、慌てて日本へ帰るための飛行機を探した。幸い、航空券も確保できた。帰国が近づいてきた。

 午後5時に口頭でPCR検査の結果が伝えられた。「陰性」。予想はしていたが、やはりほっとした。(9月29日付に続く)


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