歯学部トップインタビュー

5学期制で学習しやすく
~災害医療や法医歯学の発展にも寄与―神奈川歯科大学~

 神奈川歯科大学は1910年に設立された東京女子歯科医学校を前身とし、64年に現在の横須賀に歯学部を開設した。明治・大正期の海軍機関学校の跡地に建てられた校舎は海に近く、広々とした緑豊かな敷地の中にある。英語教師として赴任していた芥川龍之介の自筆草稿や世界的に著名な解剖学者・横地千仭(ちひろ)名誉教授の絵画作品、約220点に上る人体標本を備えた資料館は一見の価値がある。XR(クロスリアリティー)技術を駆使したデジタル歯科教材の開発など独自の取り組みも光る。櫻井孝学長は「建学の精神は、すべてのものに対する慈しみの心と生命を大切にする愛の精神の実践です。患者さんの人格を理解した医療を提供できる歯科医師を目指す学生に来てほしい」と話す。

インタビューに応じる櫻井孝学長

インタビューに応じる櫻井孝学長

 ◇歯科医師は過剰ではなく不足

 国民皆歯科健診の導入が検討されるなど、健康寿命の延伸に役立つ歯科の重要性がクローズアップされている。

 そんな中、櫻井学長は「2017年を境に歯科医院の数は急激に減少しています。歯科医師国家試験の合格者数も減っていますから、歯科医師は減っていく一方です。このままの状態で地方の歯科医療の供給体制が維持できるのか疑問です」と危機感を募らせる。

 過去には「歯科医院がコンビニエンスストアより多い」「歯科医師はワーキングプアだ」などのネガティブな報道がされ、歯科医を目指す学生の数が落ち込んだ時期もあったという。

 「高齢化に伴って、ますます口腔(こうくう)の健康管理を増進することが国民医療費の削減につながることが明らかになっています。口腔の健康を支え、国民の皆さんの健康維持に貢献できる歯科医師を育てていきたい」

 ◇着実に学習内容が身に付く

 在校生へのアンケートの結果、神奈川歯科大学を進学先として選んだ理由として「5学期制で勉強しやすい」「国家試験合格率が安定している」「施設や設備が充実している」―の三つが上位に挙がった。

 通常は1年を前期・後期に分けるのが一般的だが、期末試験の範囲が広くなる。これに対して、2カ月間で1学期の5学期制にすると、1学期に少数科目に集中することで試験科目も減る。負担が軽減されて着実な単位取得ができるというわけだ。

 「試験の結果が悪ければ、その都度、補習して再試をします。学習内容を着実に履修して次の学年につなげていくことができるので、学生も非常に満足しています」

 日常生活も含めた学生のバックアップ体制が手厚く、クラス全体とは別に小グループ単位で担任を付けるなど、きめ細かいサポート体制を取っている。保護者がポータルサイトで、わが子の出席状況をチェックできる仕組みも10年以上前から導入。さらに、授業に3日間出席しないと大学が本人に連絡を取って確認する。

 こうした恵まれた学習環境が功を奏してか、年々、難易度が高くなっていると言われる歯科医師国家試験も14年以降は平均を上回る合格率を維持している。

2017年11月に新築移転された神奈川歯科大学附属病院

2017年11月に新築移転された神奈川歯科大学附属病院

 ◇ハイテク教材で学生の関心高める工夫

 施設や設備面への学生からの評価も高い。コロナ以前から、すべての講義は録画して自由に視聴できる体制ができていたため、緊急事態宣言発令後の1カ月で全国に先駆けてハイブリッド型の授業をスタートできたという。

 さらに、バーチャルリアリティー(VR)や拡張現実、空間再現技術などのXR技術を駆使した歯科実習支援システムや解剖学の3D教材などを開発し、歯学部の教育に活用している点も大きな特徴だ。

 「歯科治療の様子が裸眼立体視できるモニター上に浮き出て表示され、タービンで実際に歯を削っているような振動や圧の感覚が手にフィードバックできるところまで進んでいます。高校生の体験プログラムで経験してもらうと非常に満足度が高いですし、3Dの解剖学教材は予習、復習にも役立つので、歯学部の学生に好評です。最新の機器を使うことで学習内容への興味が高められ、理解も深まります」

 ◇法医歯学への取り組みで、地域にも貢献

 法医歯学は同大学の特徴の一つだ。

 全国に数校しかない司法解剖用のCTを備え、検視を行う警察官のトレーニングを提供する。南海トラフ地震などの大規模災害に備え、横須賀市民のパノラマX線写真と口腔粘膜から採取したDNAのサンプルを大学にデータバンク化し、身元確認の情報として提供できる体制もつくっている。

歴史資料室と人体標本室から構成される神奈川歯科大学資料館

歴史資料室と人体標本室から構成される神奈川歯科大学資料館

 ◇アジアからの留学生を積極的に受け入れる

 1学年の募集定員115人に対して、留学生は20%を占める。台湾、韓国、中国、モンゴル、米国からが多い。文部科学省が打ち出した「キャンパス・アジア」構想に沿って、積極的に留学生の確保に取り組んできた。

 「すでに、韓国や台湾からの留学生は帰国して現地で歯科医師として働き始めています。高大一貫教育も進めていて、関東学院六浦高校、鹿島学園高等学校などで、卒業後は歯学部で受け入れることを前提に、高等学校に入学してもらう提携をしました」

 大学が求める学生は将来、歯科医療で社会に貢献したいという気持ちを持った人だ。「建学の精神に『愛の精神』を掲げていますから、患者さんに優しさを持って接することのできる歯科医師を目指してほしい」

 ◇文系から歯科医に

 櫻井学長は栃木県の教育者一家の次男として生まれた。ジャーナリストか教師になりたいと思っていたが、「3人兄弟の中で1人は医師か歯科医師に」という両親の希望をそのまま素直に受け入れて、歯科医師を目指すことにしたという。

 「先に兄が工学部に進学したので、次男の私に期待がかかったんです。歯科医師も人の役に立てるし、悪くないかなと思ったのですが、もともと文系だったので、いきなり国立大学の歯学部は目指せません。『浪人するよりは私立でも良い』と言われ、奥羽大学に入学しました」

 両親の入院をきっかけに、卒業後は地元の自治医科大学の歯科口腔外科に入局、そこで多くの口腔がん患者を診た。

 「患者さんががんで亡くなることが多かったんです。当時、まだ新しい画像診断技術が出始めた頃で、MRIの第1号機が入ったばかりでした。治療成績を上げるためには、病気をきちんと捉えることが必要。画像診断を勉強し直す必要があると思いました」

 神奈川歯科大学の放射線科に大学院生として再入学した後、アメリカのデュポン社に1年間企業留学をして、デジタルX線撮影の技術開発に取り組んだ。

 帰国後は横浜市大の放射線科でも学び、口腔がんの密封小線源治療に積極的に取り組んだ。

 「密封小線源治療は、くぎのようなものをがんのあるところに刺す治療法なので、職人技なんです。刺し方が少しでも違うと治りません。20年ほどやっていましたが、治癒率は90%以上でした」

 趣味は音楽。幼少期からバイオリンを習い、ウィーン少年合唱団に入るよう勧められたほど歌も得意だった。

 「高校時代はフォークソングに夢中でライブハウスで演奏したり、大学ではロック研究会と軽音楽研究会に入って、他大学の学園祭で演奏したりしました。流行のロン毛で青春を謳歌(おうか)していました」

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